鼎談 「岐阜とスポーツ。若き競技者たちの挑戦。」
Gifu and Sports:
The Challenge of Young Athletes

Profile
長瀬 凛乃さん (↑写真中央)
岐阜市出身。小学校3年生の時にフェンシングを始める。岐阜市立境川中学校2年生の時に全日本選手権ベスト16に入る。県立岐阜総合学園高校ではインターハイで個人2連覇・団体優勝を果たす。2024年世界ジュニアカデフェンシング選手権大会ジュニアの部3位入賞、第77回全日本フェンシング選手権大会女子フルーレで優勝。2025年のアジアジュニア選手権優勝・団体優勝、FISUユニバーシティゲームズ団体で銅メダル獲得。
大久保 颯大さん (↑写真右)
埼玉県飯能市出身。東海大浦安高校を経て東海大学に進学。2024年の第76回全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)にキャプテンとして出場し、準優勝を果たす。2025年2月にプロバスケットボールリーグ(B3リーグ)2024-25シーズンの特別指定選手として岐阜スゥープスに加入。5月に選手契約し、プロバスケットボール選手としての本格的なキャリアをスタートさせた。試合の流れを変えるディフェンスと仲間を鼓舞するプレーが持ち味。
原 陸碧さん (↑写真左)
岐阜市出身。小学校1年生から野球を始める。中学時代は地元のクラブチーム「岐阜パイレーツ」に所属。2024年に市立岐阜商業高校に入学。2年次の全国高等学校野球選手権岐阜大会では、投手として2回戦の中京高校戦などに登板。2025年秋から発足した新チームではキャプテンに就任し、一体感のあるチームづくりに力を注いでいる。
©(公社)日本フェンシング協会
全日本選手権でのベストなプレー。
―まず、皆さんのこれまでの競技歴を教えてください。
■大久保:僕がバスケットボールを始めたのは小学校1年生の時です。中学まで地元の埼玉県でプレーした後、千葉県の高校に進んで3年間を過ごし、その後は東海大学でプレーしました。 以前からプロバスケットボールの試合を観るのが好きで、興味のあるチームの練習に参加させていただいていたんです。ご縁があって岐阜スゥープスの練習に参加させていただいたところ、チームの方から「入団してほしい」というありがたい声をかけていただき、2025年の2月からチームの一員になりました。
■長瀬:私は岐阜市出身で、小学校3年生の時に地元の総合型地域スポーツクラブでフェンシングを始めました。中学校までそのフェンシングクラブに所属し、高校は岐阜総合学園高校に進みました。岐阜県は全国的に見てもフェンシング王国と言われていて、インターハイなどでも上位に入ることが多いです。理由としては、私が入っていたようなクラブチームが活動に力を入れていて、子どもの頃からフェンシングに親しむ機会があることが大きいと思います。 私の高校に後輩として入ってきてくれたのが、小学生の頃から同じフェンシングクラブで競技していた子たちです。個人戦だけでなく団体でもインターハイに出場できるようになり、2023年の大会では団体でも優勝することができました。私と一緒にフェンシングをしたいと言って後輩たちが入部してきてくれたことをうれしく思います。
―2024年の全日本選手権のことも、ぜひ振り返っていただきたいと思います。
■長瀬:高校時代、インターハイで優勝することは自分の中で「必ず取らなければならない」というマストの目標でした。2024年の全日本選手権はパリオリンピック直後の大会で、オリンピックでメダルを取った選手たちも出場しました。正直、自分の中で優勝は難しいと思っていたのですが、挑戦者の気持ちで臨んだ試合の本番ではベストのプレーができ、優勝という結果につなげることができました。

―原さんのこれまでの歩みも教えてください。
■原:僕は小学校2年の時に学校の少年団で野球を始めました。中学生の頃はクラブチームでプレーし、市立岐阜商業高校(以下、市岐商)の野球部に入部しました。市岐商に入った理由は、僕が中3の時に夏の県大会で準優勝したのを見て憧れを感じたからです。「自分もこのチームに入ってプレーしたいな」と思いました。
■長瀬:その年は、私が高3だった年です。夏の大会で私の母校が市岐商と対戦したので球場まで応援に行きましたよ。残念ながら負けてしまったのですが、懐かしいです。
■大久保:3人の中で、岐阜が地元じゃないのは僕だけですね。僕は埼玉県の飯能市というところの出身なのですが、山と川があって岐阜と雰囲気が似ています。そういう穏やかな雰囲気のまちが好きなので、岐阜がすごく気に入っています。
■長瀬:分かります。私はいま東京に住んでいるのですが人混みに慣れなくて、岐阜に帰ってくると本当に落ち着きます。
■大久保:岐阜は、人も穏やかですよね。ショッピングセンターなどでファンの方と遭遇することがあるのですが、そういう時にとてもフランクに話しかけてくれます。アットホームな雰囲気でファンの方と関われることが岐阜スゥープスの魅力です。 僕のデビュー戦がホームの試合だったのですが、その時も熱狂的なファンの方がすごく多いと感じました。いつも、岐阜が一体となってチームを応援していただいている感じがします。
多くの人に面白さを知ってほしい。
写真提供:岐阜スゥープス ※ 写真は2024-25 シーズン
―皆さんは現在(2025年8月中旬)、どのような状況なのでしょうか。
■大久保:僕は岐阜スゥープスでの最初のシーズンを終えたところです。今はオフシーズンで、次のシーズンが9月末から始まるので、それに向けて準備をしています。
■長瀬:私は東京の日本女子体育大学に通っているのですが、今は夏休みで岐阜に帰省しています。9月からシニアのランキング戦が始まります。
■原:僕は1か月ほど前に2025年の岐阜県大会が終わりました。今は、次の大会に向けて練習を重ねているところです。新チームではキャプテンを務めることになりました。

―地域でさらにスポーツを盛り上げていくために、何が必要だと思いますか?
■大久保:先ほどお話ししたように岐阜スゥープスには熱心なファンの方が多く、観客数も年々増えているのですが、まだまだ地域に根付いている途中だと思います。ぜひ一度試合会場に足を運んでいただいて、僕たちの試合を観ていただきたいと思います。バスケットボールの試合は室内で行われるので、音響などの効果もあってライブ会場のような盛り上がりがあります。そういう会場の雰囲気も楽しんでいただきたいですね。
■長瀬:私はBリーグの試合を会場で見たことがありますよ。すごく迫力がありました。
■大久保:ただ、バスケットボールは野球やサッカーに比べるとまだマイナーだと感じます。僕たちがもっといろんな場所に出て、バスケットボールの良さを多くの人に伝えていくことが必要だと思っています。
©(公社)日本フェンシング協会
■長瀬:フェンシングはバスケットボールよりもさらにマイナーで、テレビでもほとんど放送されないんです。もっと多くの人にフェンシングを知っていただく機会が増えるといいな、と思います。
■大久保:僕は今日、長瀬さんの話を聞いて、フェンシングの試合をちゃんと観てみたいと思いました。長瀬さんはフェンシングにどんな面白さを感じていますか?
■長瀬:フェンシングは、個人戦でも団体戦でも、試合中は常に相手と一対一なんです。バスケットボールでも試合の中で一対一の状態があるじゃないですか。あの感じがずっと続くんです。3分3セットで試合が行われ、15本先取なのですが、15本の中にわざと相手に取らせる点数があったりします。
■大久保:そういうこともあるんですか。面白い!
■長瀬:面白いですよ。フルーレという種目の場合はベストを着けている部分を突いたら得点になるのですが、相手にベストの中のどこを狙わせてどこを守らせるかを考えて試合を組み立てます。そういう駆け引きが面白いです。
■大久保:なるほど。原くんは、野球にどんな面白さを感じる?
■原:自分がプレーする時はもちろん、試合を観戦しても感動があります。試合の中でもいろんな展開があるので、それぞれの場面によって選手の緊張感や喜びが伝わってくると思います。
■大久保:確かに、「この1球で試合が決まる」っていう緊迫した場面があるよね。ああいう時に投手は手に汗をかいたりしないの?
■原:「ここで決まる」という時は、僕は逆に「やってやろう!」という気持ちになります。
チーム全員が同じ方向を見る。
写真提供:岐阜スゥープス ※ 写真は2024-25 シーズン
―子どもの「スポーツ離れ」が進んでいるとも言われる中で、もっとスポーツを身近に感じてもらうために、どんな魅力を知ってほしいですか?
■大久保:体を動かすだけでも楽しいし、本格的に競技をして上達する面白さももちろんあります。また僕の場合だと、バスケットボールを通して人との関わり方を学んだりしたので、そういう魅力もあると思います。
■長瀬:スポーツを通して生まれる人間関係ってすごくいいですよね。私の場合も東京の大学でプレーしたり日本代表の遠征に参加したりする中で、フェンシングをやっていなかったら出会えなかった人たちとたくさん出会いました。 最近では今年7月にドイツでFISUワールドユニバーシティゲームズが行われたのですが、元から仲の良かった4人が団体戦のメンバーに選ばれたんです。小学生の頃から一緒に海外遠征に行くなど長く付き合っているメンバーなので、打ち解けた雰囲気で試合に臨むことができました(団体戦で銅メダルを獲得)。

■原:僕は野球を通してあいさつや礼儀を学びました。チームの監督からは常々、「野球がうまいだけではいけない」と言われています。地域の方に応援していただいている立場でもあるので、あいさつはしっかり行うようにしています。また、上下関係も最低限はあるのですが、試合に出ている選手を学年に関係なく応援する雰囲気があるのは市岐商野球部の良さだと思います。 1か月前の夏の大会で、僕が登板した試合で負けてしまったんです。2年生の僕の立場として「3年生の分まで勝ちたい」と思っていたのですが、結果を出せず本当に申し訳なさと悔しさを感じました。先輩方に「ごめんなさい」と言ったところ、「謝らなくていいから次は勝てよ」と言ってくださって、すごくありがたいなと思いました。
■大久保:僕が所属していた東海大学バスケットボール部の監督も、人間性に重きを置いて指導される方でした。人として当たり前のことを大切にしようという考え方です。 そういう文化の中、僕が4年生になってキャプテンになった時に大切にしたのが、「チームで同じ方向を見る」ということです。「日本一」という目標を掲げたのですが、学年に関係なく同じ熱量で日本一を目指さないと絶対に優勝することはできません。1年生や2年生が「先輩のために」と頑張ってくれるようなチームが、やっぱり一番強いんです。そのためにはただ先輩が厳しいだけではだめで、後輩を引っ張り上げないといけない。そんなことを考えていました。
■原:僕は新チームのキャプテンになったばかりなので、今のお話はすごくありがたいです。今までチームを引っ張ってくれた3年生が抜けた後、「どうやって一緒のところを向くか」を考えていたところでした。今お聞きしたことを意識していきたいと思います。
©(公社)日本フェンシング協会
―最後に、皆さんの今後の目標を教えてください。
■大久保:2つ目標があります。ひとつは、岐阜スゥープスとしての目標でもあるのですが、現在所属しているB3リーグで優勝することです。もうひとつが個人的な目標で、日本代表になることです。
■原:僕の目標は、県大会を勝ち進んで甲子園に出場することです。また、個人的には高校を卒業した後も野球を続けたいと思っています。大学・社会人まで野球を続けることを目指しています。
■長瀬:私のフェンシング人生を通じた大きな目標は、2028年のロサンゼルスオリンピックと2032年のブリスベンオリンピックに出場することです。また、オリンピックに至るまでの目標としては、全日本選手権で再び優勝し、海外のシニアの大会でメダルを獲得したいと思っています。全日本選手権などの試合を、多くの方に観に来ていただけたらうれしく思います。
インタビュー内容、所属は取材当時(2025年8月)のものです。
投稿日:2025.12.18 最終更新日:2025.12.18

