【後編】早川千絵さん インタビュー
Close-up gifu city
Interview02

大切な記憶をふっと思い出すような、
そういうきっかけにこの映画がなったら
うれしく思います。
―この映画のエンドクレジットには岐阜市フィルムコミッションの担当者の名前が記載されています。こういうことは珍しいのではないでしょうか。
■早川:そうなんです。通常はエンドクレジットにはフィルムコミッションの担当者の名前まで入れないのですが、「内藤さんと吉田さん(フィルムコミッションの担当者)の名前は必ず入れてください」とお願いしました。お二人は、誰よりも先にロケハンに入ってくださった方たちなんです。まだスタッフの人選なども決まっていない時に、私や撮影監督の浦田さんと一緒にロケハンに参加していただきました。
脚本を読んでいただき、めぼしい撮影候補地に連れて行っていただいたのですが、その場所が軒並み良くて、「まさにこういう場所を求めていた!」という場所ばかりでした。脚本を読んで監督の意図を汲み取り、イメージに合った撮影場所を見つけるという、かなり難しいことをやってくださったと思います。
岐阜市のフィルムコミッションにさまざまなサポートをしていただき、通常のフィルムコミッションとの関わり以上に強いつながりが生まれました。情熱を持ってこの映画に参加してくださったことを感謝しています。
芥見東小学校での撮影風景
―岐阜のまちの印象も聞かせてください。今回、柳ケ瀬商店街でも撮影されていますが、柳ケ瀬の印象はいかがでしたか?
■早川:初めて柳ケ瀬商店街を見た時は感動しました。私はタイムスリップしたみたいだと感じたのですが、日本からああいう風景がどんどん消えてしまっているので、本当に貴重だと思います。35ミリのフィルムで映画を見られる映画館があることも印象的で、昔の柳ケ瀬は映画のまちだったとも聞き、「すごくいいな」と思いました。本当にフォトジェニックというか、映画に映したくなるまちです。
その一方で、私が行った時の印象として、歴史のある商店街でありながらも若い人たちがいろんなお店を始めているなど、何か活気を感じたんですよね。個性的でいいお店がたくさんあると思いました。
―この映画には、岐阜市民の身近な場所がたくさん出てきます。映画を見て改めて地元の魅力を感じる人も多いと思います。
■早川:そう感じていただけたらうれしいです。この映画を見てくださったある方が「自分もこの橋を自転車で渡っていました」「当時のことを思い出しました」と話してくださいました。普段何気なく通っている橋も、その人の人生の一部だと思うので、自分の大切な記憶をふっと思い出すような、そういうきっかけにこの映画がなったらうれしく思います。
長良橋での撮影風景
―撮影期間中に市内で観光をしたりまちを歩いたりする時間はありましたか?
■早川:観光もしたかったのですが、なかなか時間を取ることができず、ほとんどできなかったんです。ただ、朝は時間を取ることができたので、撮影の前にモーニングを楽しんでいました。みんなで「ここのお店のモーニングはこんな感じだったよ」とか「茶碗蒸しが出たよ」などと情報交換をしながら、いろんな喫茶店に行くのがすごく楽しかったです。
―観光地という視点で見た時、岐阜市にはどのような魅力があると思われますか?
■早川:鵜飼という文化もありますし、いろいろな場所に魅力的な風景があります。私は今回の撮影がきっかけで岐阜を知ったのですが、「こんなにいいところがあるんだ」とびっくりしました。東京からも行きやすいので、一度広く知られるきっかけがあれば海外からのお客さんもさらに大勢来るだろうな、と思います。
私もいつかどこかのタイミングで岐阜に2、3日泊まって、ゆっくり観光したいと思っています。

―これからの時代の「地方の可能性」について、早川監督はどう思われますか?
■早川:私は東京生まれ東京育ちで、今まではあまり地方の都市と関わることがなく過ごしてきたのですが、今回の撮影でご縁ができて何度も岐阜に足を運ぶことになりました。また、最近新潟の大学で教えるようになり、新潟にもまた違った個性を感じています。
東京の均質さを実感することが多い一方、私は今改めて「地方が面白いな」と思っています。その地域特有の、そこでしか見られないものや得られないもの、食べられないものが、これからどんどん大事になってくると思うんです。それぞれの土地の土着のものが一番面白いと思いますし、その土地の人たちが自分のまちを盛り上げようとする動きが起きていることに、すごく希望を感じています。
規模が小さいからこそいろんなアイデアが柔軟に出やすく、人がつながりやすい。今、コミュニティの存在が薄れつつある中で、そういうことを大切にしていこうという動きが徐々に活発になっている気がして、そこに希望を感じます。
Profile
■早川 千絵さん

短編『ナイアガラ』が2014年第67回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門入選、ぴあフィルムフェスティバル グランプリ受賞。2018年、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編の監督・脚本を手がける。その短編から物語を再構築した初の長編映画『PLAN 75』(22)で、第75回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督)特別賞を受賞し、輝かしい才能が世界から注目されている。
Movie
■映画「ルノワール」

早川千絵さんが監督・脚本を手がけ、2025年6月20日より全国公開された長編映画。11歳の少女が、大人の世界を覗きながら人々の心の痛みに触れていく様子が、繊細な筆致で描かれている。本作品は第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された。
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■ロケツーリズム推進事業
岐阜市では、観光誘客を目的として、映像作品などのロケの誘致・支援を行うロケツーリズム推進事業を積極的に進めています。清流長良川や金華山などの抜群のロケーションや、昭和の面影が残る商店街のほか、市内の各地でこれまでに多くの映画、テレビ番組、CMなどの撮影が行われ、地域の魅力が発信されてきました。
投稿日:2025.12.17 最終更新日:2025.12.17