【前編】早川千絵さん インタビュー
Close-up gifu city
Interview01

この映画の中に映っている長良川の存在は、
自分が想像していた以上に大きなものでした。
2025年6月に公開された映画『ルノワール』。この映画には、岐阜市民にとってなじみ深い場所が多く登場します。監督・脚本を手がけた早川千絵さんに、撮影時のエピソードや岐阜の印象などをお聞きしました。
―映画『ルノワール』のロケ地として岐阜市を選ばれた経緯を教えてください。
■早川:『ルノワール』は1980年代を舞台とした映画なので、その時代に見えるまちを探す必要がありました。実際に探すのは大変だろうなと思っていたのですが、撮影監督の浦田秀穂さんが岐阜市出身で、「岐阜がいいんじゃないですか?」と提案してくださったんです。浦田さんの高校の後輩の方が岐阜市のフィルムコミッションにいらっしゃるということで、すぐに連絡を取ってくださいました。特に(当時の建物のように見える)病院と学校を見つけることが難しいと考えていたのですが、「こういう場所がありますよ」とすぐ写真を送ってくださって。その後、実際に岐阜を訪れたところ、もう「ここだ!」と思いました。それ以降も何度も岐阜に足を運び、いろいろな場所でロケハンをしました。
―イメージ通りの撮影場所を見つけるのは難しいことなんですね。
■早川:そうなんです。よそから来た私たちが自力で探したとしても、なかなか見つけられるものではありません。フィルムコミッションの方のサポートがとても大きな力になりました。
そうした調整のおかげで撮影できた場所は病院や学校以外にもいろいろありますが、印象深いのは橋ですね。浦田さんは岐阜市で育った方なので「どの橋にいつ、一番いい光が当たるか」を分かっていて、初めから「絶対に忠節橋で撮りたい」とおっしゃっていたんです。それを実現することができました。 主人公のフキとお母さんが忠節橋を渡るシーンを撮影したのは夕方です。光がちょうどいい角度で川に当たり、なおかつお母さんのシャツにも光が当たるというベストなタイミングで撮ったからこそ、美しい画になっています。他にもそういうエピソードがたくさんあって、岐阜を知り尽くした撮影監督がいたことが大きかったと思います。
―撮影された映像を見て改めて感じられたことはありますか?
■早川:この映画の中に映り込んでいる長良川の存在が、自分が想像していた以上に大きなものだったな、と感じました。主人公たちがこういう大きな川のあるまちに住んでいて、常に川を見ながら日常を過ごしていることが、とても重要なモチーフになっています。フキとお母さんは病院にお見舞いに行く時に忠節橋を渡るのですが、その(生活と川がつながっている)感じがこの映画にとって必要不可欠だったと撮ってから改めて感じました。

―長良川の存在感が映像から伝わっているということですね。
■早川:そうですね。フキとお父さんが河原の道を歩くシーンがあるのですが、あの太い川幅の、あの大きな自然。それと小さな人の姿の対比は、長良川だからこそ生まれたものだと思います。
また、長良橋の上から見える鵜飼も、すごく重要な映画的なモチーフになっています。ロケハンに行った時にたまたま鵜飼を見る機会があったのですが、ちょうど能の曲が流れていて、「何て幻想的で良いんだろう」と思って映画の中でも使わせてもらいました。
映画の中でフキが見つめる長良川や鵜飼の炎というのは、なんというかちょっと、黄泉の国という感じがするというか。彼女が見ているのは夢なのかもしれないし、幻想かもしれない。その「あわい」のところは映せたと思います。そういう意味でも、長良川なくしてこの映画は撮れなかったと思います。
―岐阜市民にとって長良川はとても身近ですが、この風景はどこにでもあるものではないのですね。
■早川:そうですね。特別なものだと思います。東京にも川はありますが、その両岸には高いビルが建っていて、岐阜のように開けた風景ではありません。だからすごく特別だと思います。そう、私は岐阜に来ていつも「空が広い」と思っていたんです。夕暮れ時をマジックアワーと呼ぶのですが、ロケハンの時に浦田さんが「岐阜のマジックアワーは日本一美しいですよ」とおっしゃっていたことが印象に残っています。
―「また岐阜で映画を撮影してみたい」というお考えはありますか?
■早川:もちろんあります。この先どういう映画を撮るかについては、今はまったくゼロの状態なのですが、また長良川に戻ってきたい、この川の風景に戻ってきたいという思いはあります。浦田さんとは半分冗談、半分本気で、「岐阜三部作、やりませんか?」「やりましょうよ」という話をしていたんです。実現したらいいですね。
Profile
■早川 千絵さん

短編『ナイアガラ』が2014年第67回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門入選、ぴあフィルムフェスティバル グランプリ受賞。2018年、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編の監督・脚本を手がける。その短編から物語を再構築した初の長編映画『PLAN 75』(22)で、第75回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督)特別賞を受賞し、輝かしい才能が世界から注目されている。
Movie
■映画「ルノワール」

早川千絵さんが監督・脚本を手がけ、2025年6月20日より全国公開された長編映画。11歳の少女が、大人の世界を覗きながら人々の心の痛みに触れていく様子が、繊細な筆致で描かれている。本作品は第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された。
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■ロケツーリズム推進事業
岐阜市では、観光誘客を目的として、映像作品などのロケの誘致・支援を行うロケツーリズム推進事業を積極的に進めています。清流長良川や金華山などの抜群のロケーションや、昭和の面影が残る商店街のほか、市内の各地でこれまでに多くの映画、テレビ番組、CMなどの撮影が行われ、地域の魅力が発信されてきました。
投稿日:2025.12.17 最終更新日:2025.12.17
