対談2023
■大月 智弘さん
書店の店長を経て、セレクトショップ「parkLiFE」の開業時より店長を務める。その後独立し、2009年に広告制作会社「SignaL」を設立。クリエイティブディレクターとして、幅広い分野の広告制作を手がけている。
■福富 梢さん
大学在学中に「リノベーションスクール@岐阜」に参加するなど、柳ケ瀬のまちに関心を持つ。現在は柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社の社員として、「サンデービルヂングマーケット」などの運営に携わる。
お客さんと対等に話すのが好き
―大月さんが店長をされていたセレクトショップ「parkLiFE」は、何年の開業ですか?
■大月:1999年です。
■福富:あっ、私が生まれた年です!
■大月:あの時代に福富さんが生まれたんですね。混沌としていて面白い時代でしたよ。
僕は印刷会社で働いた後、本屋の店長を5年務めました。その後、会社を経営している友人に誘われて岐阜で店をやることになったんです。メンズのストリートブランドのショップを作ることにしたんですが、自分たちが売りたいブランドはすでに他の店が取り扱っていました。
そこで売ることにしたのが、自分が好きだった映画のビデオや写真集です。ビデオを400本くらいと写真集を600冊くらい置き、BMXという自転車も売りました。Tシャツの枚数は20枚くらいだけ。そういうどこにもないような店が、初期の「parkLiFE」でした。当然、最初は全然売れなかったんですけどね。
―印象に残っているお客さんとの関わりはありますか?
■大月:若いお客さんから「今週デートなんですが、何を着ていったらいいですか?」などと相談された時に、コーディネートするのが大好きでした。
■福富:当時から“兄貴感”のある方だったんですね。
■大月:兄貴というわけではなくて、対等な感じで話すのが好きだったんです。当時は他の店でも、ショップのスタッフにいろいろ相談するような関わりがあった気がします。
―お店が認知されるようになったきっかけはありますか?
■大月:金曜日と土曜日の夜に12時までの営業を始めたことです。その頃、自分が忙しい時にお客さんが増えると、みんなに対応することができなくて、どうしようかと思っていたんです。それなら、お客さん同士がしゃべれる時間を作ればいいんだ、と。その日は売上とかも気にせず、とにかくみんなをつなげようと思いました。
■福富:すごい!
■大月:そこから一気に広がりました。店でつながった人同士がクラブイベントをやったり、「いつから友だちになったの?」みたいなことがどんどん起きて、楽しさが一気に加速しました。
「絶対に柳ケ瀬がいい!」
―福富さんの歩みもお聞きします。岐阜のまちにどんな思い出がありますか?
■福富:小学生の頃からよく、柳ケ瀬で買い物をしていました。母が雑貨のお店が好きで、何かのご褒美の時とかに小さい雑貨を買ってもらった思い出があります。
■大月:小学生から? まちの子やなー!
■福富:その頃、柳ケ瀬のまちはあまり盛り上がっていないイメージでしたが、実際に行ってみると面白い場所があることが分かりました。自分の行けるお店が一軒でもあると、まちの見え方がだいぶ変わるのだと思いました。
―大学卒業後、民間のまちづくり会社である「(柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社(以下、まち会社)」に入社されたわけですが、どんなきっかけがありましたか?
■福富:大学生の頃に、サンデービルヂングマーケット(以下、サンビル)に出店したことが一番大きなきっかけです。柳ケ瀬で行われたリノベーションスクールに参加した時にまち会社の人たちと知り合い、サンビルへの出店につながりました。
友人の中に、美大に行って作家をめざしている子がたくさんいて、そういう子たちの作品をサンビルで売ろうと思って出店したんです。「文化のための何でも屋」という意味を込め、「文化屋」という名前で活動しました。そうするうちに、大学卒業後も柳ケ瀬で何かをやりたいと思うようになりました。まち会社で働きたいけど、それができなかったらアルバイトでもいいから柳ケ瀬で働こうと思っていました。「絶対に柳ケ瀬がいい!」と思って。
■大月:すごい。そういう意味で言うと、福富さんにきっかけを与えたサンビルのパワーというのはすごいよね。
■福富:はい。大きな存在でした。
■大月:サンビルはやっぱり「事件」ですよね。岐阜の歴史における、一つの事件だと思う。だって、ずっと人がいなかった柳ケ瀬に、いまあんなに人が来るんですよ。そしてサンビルをきっかけに、福富さんのような有望な方がまちに来たわけだから。
「やればいい」と背中を押す
―大月さんが2008年に広告制作会社「SignaL」を設立された後、大月さんの後輩や関わりのあった方がたくさん独立されていると聞きました。
■大月:はい。「parkLiFE」で僕の下で働いていた子たちが、どんどん店を出しました。「College」「WALK ABOUT」などの店です。なかなか紹介し切れないのですが、岐阜の歴史を語る上で外せないショップがたくさんあります。
僕は、商品の力だけでお客さんを作ることに限界があると思うんです。やっぱり、お店に立っている人の力、人の魅力が重要だと思う。そういう店が結果的に長く続いている気がします。飲食店で名前を挙げるなら、そういう流れを最初に作った「aLFFo」、これから新しい流れを作ってくれそうな「Takuro Coffee」に注目しています。
■福富:自分の店を出したい人が相談に来たとき、どんなアドバイスをしますか?
■大月:アドバイスはせず、ただ「やればいいじゃん!」と言うだけです。無責任なものですよ。
■福富:いや、皆さんきっと、先輩である大月さんにそう言ってほしいのだと思います。
■大月:大人ってよく、「そんなに甘くないよ」とか言いがちですが、自分が若い時はそういう大人と二度と話したくないと思っていました。なので、僕は「いいじゃん。絶対やりゃあ」としか言いません。で、店をやり始めた後は自分で考えればいいと思っているんです。考えて調整する力があれば大丈夫、とみんなに言っています。
大切な友だちがいる場所だから
■大月:福富さんは、まち会社の社員として「まちを良くしたい」とかそういうモチベーションはあるんですか?
■福富:実は最近、「まちづくり」という言葉が少しピンとこなくなっています。それ以前に、みんなが楽しく生きていけることが一番というか。お互いに干渉するのではなく、それぞれが楽しめたらいいな、と思います。
■大月:一緒! 僕もいわゆる「まちづくり」には、ちょっとピンときていないです。もちろん、岐阜に住んでいて岐阜が好きですが、その前にやっぱり大切な友だちの存在があります。一緒にお酒を飲める友だちがいる場所だから好き、という順番です。
■福富:すごく共感します! 岐阜というまち自体が好きというよりも、高校の時に部活の子たちと放課後にここに行ったな、とか、花火大会の前にみんなであのお店に行ったな、というエピソードが思い浮かびます。それがあるから岐阜で何かをやりたいと思います。
■大月:自分の高校時代を振り返っても、「この店に行って、次はここに行って」というのが楽しかった。それって結局、人に会いに来ているわけですよね。みんながそういう感覚になれば、まちは勝手に盛り上がっていくと思っています。サンビルでも、出店者同士って仲良くなりませんか?
■福富:けっこう仲良くなりますね。
■大月:たぶん、お互いの商品を買い合ったりすると思うんです。僕はあれがまちの原点だと思っています。近くの店の人が「今日ヒマなんですよ」と言っていたら、「後で靴下買いに行くわ」とか。それをみんなが自然にやれば、お客さんも「あそこの店同士、仲がいいんだ」と思って、いろんな店をまわりやすくなるはずなんです。そうすれば、まちに来るのが楽しくなると思います。
年齢が違っても、「ひと対ひと」
―次の時代を担う福富さんに、大月さんからアドバイスをお願いします。
■大月:今のままで十分だと思うんですが、これから若手から中堅になっていった時に……いや、堅苦しい話をするのは嫌だな。やめときます。
■福富:聞きたいです!
■大月:僕は、世代や年齢の違いはあまり関係ないと思っていて、結局「ひと対ひと」だと思うんです。それさえ忘れなければ、ちゃんとした輪ができていくと思います。僕と福富さんだって年齢は離れているけど、「ひと対ひと」だから。
■福富:ありがとうございます。今日、大月さんが自分と対等に話してくださっていることを、すごく感じました。だからこそ、人がついてくるということが分かった気がします。
―最後に、岐阜市の今後の可能性について感じていることを教えてください。
■大月:可能性はみんな感じていると思います。そういう空気感はないですか?
■福富:はい。「岐阜って何もないよね」という言葉に対して、「そうでもないよ」と言ったり思ったりできる人が増えてきたと感じます。
■大月:僕も未だに、口では「岐阜は何もないもんね」と言ったりしますけど、本心では何もないとは思っていないですね。紹介したいと思える人がいっぱいいるし、紹介したい店もいっぱいある。面白い子たちが店をやり始めているのは大きいと思います。
■福富:そういう面白い人たちが今後、いろんな形でまちに関わっていってくれるのかなと思います。最近「柳ケ瀬日常ニナーレ」というイベントの準備をする中でも、そのことを感じました。
大月さんたちの世代の方々が、まちの価値を見つけてくれたからこそ、今があるのだと感じます。先輩方のおかげで、自信を持って「何もないことはない」と言えるのが、今の状況だと思います。
■大月:考え方が大人!「ローカルの価値」というものを、福富さんのような若い人たちは自然に分かっている気がします。僕たちの世代が若い頃には持っていなかった価値観。なんかうらやましいなー。
■SignaL(シグナル)
大月さんが2009年に設立した広告制作会社。広告企画、広告戦略、ブランディング、コピ-ワークを柱に、顧客の要望に適したチームを組んで制作を行う。
■parkLiFE(パークライフ)
ユニセックスな品ぞろえで、スタッフが丁寧に選んだ商品を販売するセレクトショップ。1999年に大月さんが初代店長として店の立ち上げに関わった。現在は、当時から関わりのある山川さんが岐阜市に移り住み、オーナーをつとめている。
■College(カレッジ)
様々なストリートカルチャーにインスピレーションを受け、それらの空気感を落とし込んだセレクトショップ。オーナーである横山さんは地元アーティストのサポートも積極的に行っており、ショップはローカルシーンが交錯するたまり場的な場所にもなっている。
■WALK ABOUT(ウォークアバウト)
金公園の通りから一本入った路地にある、古民家を改装したセレクトショップ。トレンドに左右されないデザインと国内厳選アパレルブランドを始め、海外買い付け商品、小物などを幅広くセレクト。食品なども扱い、ライフスタイルを提案している。
■CAFE & BAR aLFFo(アルフォ)
「曲がり角のチルスポット」というコンセプトで、良質な音楽とともにおいしい食事やお酒を提供するカフェバー。DJ・アーティストによるライブイベントを定期開催している。
■Takuro Coffee(タクローコーヒー)
自家焙煎のスペシャリティコーヒーのほか、ラテやチャイ、アルコールも楽しめる。週末に開催される音楽のイベントなど、楽しみ方は多様。「コーヒーが好きな人や音楽が好きな人、いろんな人に来ていただけたら」とタクローさん。
■サンデービルヂングマーケット
手づくり品やこだわりのある商品が並ぶ、ライフスタイルを切り口としたマーケット。毎月第1土曜日、第3日曜日に柳ケ瀬で開かれ、来街者5,000人規模、出店数は150を超える規模に成長した。
■リノベーションスクール@岐阜
まちの資源を使って地域の活性化に取り組む、実践型のスクール。岐阜市では、2019年から2021年にかけて3回のスクールが開催され、その中から新しい店舗などが生まれている。
■柳ケ瀬日常ニナーレ
さまざまな体験プログラムを通して、柳ケ瀬の魅力を体感できるプロジェクト。2022年11月からの約2か月間、個性あふれる柳ケ瀬フリークたちが柳ケ瀬のまちの魅力を案内する。
投稿日:2022.12.23 最終更新日:2023.12.26