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座談会2022「働く、暮らす、楽しむ。」

crosstalk人と人座談会2022年

プロフィール

岐阜は、人がつながりやすいまち

―まずは、皆さんの自己紹介をお願いします。

■山田:二番町にある、「BLITZ COFFEE(ブリッツコーヒー)」というコーヒースタンドの店長をしています。また、2021年の5月に、ぎふメディアコスモス(以下、メディコス)の近くに2号店をオープンし、今は2つの店を行き来しています。

■瀧下:2021年4月から、岐阜市の設計事務所と、東京の設計事務所の2社でダブルワークをしています。両方の会社の社員という形です。愛知県の春日井市から岐阜に通いながら、リモートで東京の仕事もしています。東京の会社のクライアントは、広島など西の地域が多いです。Zoomなどを使ってオンラインで打ち合わせを行うほか、新幹線で現地に行くこともあります。

■髙橋:私は岐南町出身で、岐阜市内の高校に通っていました。今は名古屋の大学で建築の勉強をしています。2019年に「yanagase PARK LINE」というイベントが開催された時は、高校時代の友だちを誘ってボランティアとして関わりました。

―髙橋さんは、どんなきっかけで岐阜のまちに関わり始めたのですか?

■髙橋:きっかけは、「柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社」の大前貴裕さんの講演を聞いたことです。「サンデービルヂングマーケット(以下、サンビル)」など、柳ケ瀬で行われている取り組みのことを知りました。そして実際に通うにようになり、面白い活動をしている人がたくさんいることを知って、どんどん柳ケ瀬が好きになっていきました。私の大学がある名古屋はまちの規模が大きい分、人がバラバラだと感じるんです。でも岐阜はいい意味で小さいので、人がつながりやすいし、自分の考えを発信しやすい。そういう魅力を感じるようになりました。

■瀧下:人の面白さは、私も感じます。昼休みなどに会社の同僚と一緒に柳ケ瀬商店街を歩いていると、会う人がみんな、今まで出会ったことがないほどキャラの濃い人ばかりです。人もお店も本当に個性的だと感じます。

■山田:岐阜は確かに濃い人が多いですね。個性的だけどアピールが下手で、自分からは主張しない。逆にそれをカッコいいと感じる風潮があると思います。髙橋さんが言った「人のつながりやすさ」で言うと、人間ってそもそも「人と喋りたい」とか「何かをしてあげたい」という気持ちを持っていると思うんです。そうやって、人とのつながりを求める人を引き寄せ、増やすことが大事で、僕もそこに貢献したいと思っています。

岐阜は個性的だけど主張しない。でも、そこにカッコ良さがある。

客層は、「中学生から80歳まで」

―瀧下さんは、山田さんが店長を務める「BLITZ」によく行くそうですね。

山田規喜さん■瀧下:はい。BLITZさんは会社から近く、最初はお昼ごはんの帰りに同僚に連れていってもらいました。今もよくコーヒーを買いに行きますよ。やっぱり、私たちくらいの年代のお客さんが多いですか?

■山田:実はけっこうお客様の年齢層が広く、「中学生から80歳くらいまで」という感じです。

■瀧下:へー!そんなに幅広いんですね。

■山田:中学生が背伸びしてコーヒースタンドに来る姿を見ると、今の時代を感じます。「おすすめは何ですか?」と質問してくれたり。だからこちらも、できるだけ楽しませてあげたいと思います。若い時からこういう店の雰囲気やまちの空気感を味わうことができたら、自分のまちへの愛着につながると思うし、大人になった時に何かをするきっかけになると思うんです。

■髙橋:今何かを感じた経験が将来、まちへの愛着になるということですか?

■山田:そうだと思います。一方で年配の方との関わりもいろいろあります。ドイツ語の先生をしている方が来られて「この言葉を知っとるか?」と、急にドイツ語の意味を聞かれたり。あの店に立っていると、いろんな出会いがあります。本当に面白いです。

―瀧下さんは東京ではどんな仕事をしてきたのですか?

■瀧下:東京の設計事務所では、北は仙台や山形、南は佐賀まで、いろんな地域の仕事をしました。ただ、建物をつくった後はあくまでもその地域の人たち自身が盛り上げていくので、どこに行っても私たちの立場は「東京から来た設計の人」みたいな感じでした。だから私は、「建てた後」もしっかりと関わっていけるような、そういう仕事がしたいと思っていたんです。 岐阜で働き始めて、東京の頃との違いを感じます。一番は、クライアントとの「距離感」です。自分たちの仕事場とクライアントとの距離が近く、ただの仕事上の付き合いとは違う雰囲気で、建築やものづくりができています。お互いにこの岐阜市に住んでいて共通の地盤があるからこそ、踏み込んだ提案ができるのだと思います。

■髙橋:私も瀧下さんみたいに一度は外に出てみたいという気持ちがあります。大学院に行き、その後も岐阜以外の場所で活動してみたいと思っています。でも、その後どうするかを考えた時、やっぱりいつか岐阜に戻って何かしら岐阜とのつながりを感じながら生きていきたいという気持ちがあります。

■瀧下:私は東京に行ってみて、初めて自分が育った場所の良さを再確認することができました。一度外に出て、そこで感じたことを岐阜でやるという、一つのテーマが見つかったんです。だから髙橋さんも、外に行くのも良いと思います。

■髙橋:はい。よく考えてみます。

■山田:僕も若い時は東京への憧れが強くて、「外を見たい」と思っていました。そのきっかけになったのがラップという音楽との出会いです。昼間はスポーツショップで働いて夜はライブをする生活を続け、25、6歳の時に東京に出てからも、ライブハウスで働きながらラップを続けました。その後、岐阜に戻ってきたのは31歳の時です。自分で何かをやるなら岐阜でやりたいと思ったんです。岐阜には、自分の考え方の根本となるものや、「いいな」と思える何かがあります。自分よりも前の世代の人たちが、住みやすくて思い出に残るまちづくりをしてくれたからだと思っています。

■髙橋:私の姉も県外で暮らしているのですが、岐阜のことを「都会過ぎず田舎過ぎず、モノも人もちょうど良くて、将来結婚をして子どもを育てるのに良い場所だと思う」と言っていました。岐阜の外に出たからこそ、客観的にそう感じられたのだと思います。

「このお店が面白い」が集まれば、「このまちが面白い」になる。

SNSがまち歩きのきっかけに

―岐阜のまちの楽しみ方や、おすすめの場所を教えてください。

瀧下まりさん■瀧下:最近、岐阜出身の友だちから、「ちゃんと鵜飼とか見ておいた方がいいよ」と言われます。20代後半というちょっと落ち着きがちな年齢になってくると、“自然推し”になってくるみたいです。「金華山に絶対登った方がいい」とか。

■髙橋:私、金華山はよく登ります! 毎月行きますよ。

■山田:何をしに行くんですか?

■髙橋:登り方のパターンはいろいろありますが、たとえば「日の出コース」だと、朝5時くらいにみんなで集まって、明るくなり始めた頃に登頂します。日の出を見ていると、おじいちゃんやおばあちゃんが集まってくるので、一緒にラジオ体操をするんです。で、「お疲れさまでした」と言って下りてくる。その後は川原町の方に行ってまち並みを見ながら、モーニングして帰ったりします。

■瀧下:すごい充実したコース!ちなみに、私に鵜飼や金華山を薦めてくれた子たちは、今は岐阜に住んでいなくて、県外からの視点で岐阜の自然の良さを感じたそうです。実家に帰った時に自分の子どもを連れていける場所、という感じで「山や川があるまち」の良さを改めて実感したみたいです。

■髙橋:私が最近岐阜で感じるのは、若い人が柳ケ瀬に来るようになってきているということです。まちづくりなどに興味のある人だけでなく、みんなが普通にサンビルに来ています。新しいお店がどんどんできていて、「あのお店いいよね」と言って写真に撮り、インスタグラムなどに載せているんです。それを見た人が、「このお店どこ?」と話しながらまちに来てくれる。一般の人に注目される場所になってきていると感じます。

―山田さんは、最近岐阜市のどんな場所に注目していますか?

■山田:やっぱりお店ですね。個人でやられているお店に注目しています。柳ケ瀬が岐阜市の真ん中にあるとすると、ショッピングモールによく行く層は、そのまわりにドーナツ状に動いています。その人たちが「真ん中」に来るきっかけをつくることが重要だと思うんです。人を「真ん中」に留めるためには、ひとつの店だけでなく複数の店の力が必要だと感じます。面白い店が増えて人がぐるぐるまわるようになると、「この店が面白い」が集まって、「このまちが面白い」になると思います。

■髙橋:山田さんが言われたことが現実になり始めていると感じていて、若い人たちそれこそ高校生や中学生が、地図を見ながらまちを歩いているのを見ますよ。

■山田:それは希望が持てますね。訪れた人に「次は何があるんだろう?」と思わせるまちであってほしい。そのために、良いところは残しつつ、変えるべきところは変えていかないと。たとえばBLITZの店舗も、元々あった古い建物の雰囲気を残しながら改装して、今の形になっています。

■髙橋:多分、インスタを見て岐阜に来る若い子たちも、古さと新しさが混ざった状態を面白いと感じていると思うんです。空き家の改修や古民家カフェ、ビルのリノベーションなどによって、新旧が混ざった魅力を作り出すことは、岐阜だからこそできることだと思います。

■瀧下:実は私は、リノベーションしたビルに住み始める予定です。柳ケ瀬商店街の一角に新しいシェアハウスをつくっていて。これからは私も岐阜市に住むことになります。自分の中で何かが変わる気がするので楽しみです。

■髙橋:いいなー。私もシェアハウスは興味があります。

■瀧下:良かったらぜひ一緒に!

まちにコミットしながら働いていく

髙橋佑奈さん―今後の岐阜について、また皆さん自身について、展望や目標を教えてください。

■山田:最近メディコスの近くに2号店を出したとお話ししましたが、まずはその、「COCKNEY COOKS.BLITZ(コックニークックス.ブリッツ)」を軌道に乗せるつもりです。メディコスの周辺は景観が都会的で、数十年先まで見通すと必ずアツいエリアになると思います。あのあたりを盛り上げれば、岐阜市のまち自体が大きくなると思います。

■髙橋:すごく分かります。メディコスができたのは私が高1の時で、勉強をしたり友だちの演劇を見たり、いろんな目的で通った思い出があります。そのメディコスと柳ケ瀬がつながり、さらに長良川までつながると、歩いてめぐるのにちょうどいいコースになると思います。

■山田:人を集められるような魅力を生み出すためには、「これだけをやっていけばいい」という正解はなく、店舗の魅力と自分の人間力、発信力など、いろんなことをトータルで高めていく必要があります。そこまで深く考えさせてくれる環境に感謝したいし、岐阜に感謝したいと思います。

■瀧下:私は商店街の中に住むことからスタートし、岐阜というまちに腰を据えて仕事を続けたいと思っています。せっかく2つの会社で働いているので、その視点を活かしていきたいです。東京の会社の仕事では、今まで通り建築を通して全国のいろんな地域のことを考えていきます。その時に役立つと思うのが、岐阜で生活する経験や、そこで得られる考え方です。たとえば、どこかの地域でシェアハウスを設計することになった時、自分がシェアハウスで暮らした経験があれば、設計のデザインに説得力が出てくると思います。 「岐阜のまちにコミットしながら仕事をし、そこで学んだことを他の地域に活かしてほしい」ということは、東京の会社からも期待されていることです。自分のスキルをどんどん高めて、発信していきたいと思います。

■髙橋:私は建築がすごく好きで、まだ学び足りないと思っています。先ほど言ったように、大学院で勉強を続ける予定です。その後のことはまだ決まっていません。瀧下さんの話を聞いて、暮らし方そのものを変えながら生きていくことも面白いと感じました。

■山田: この先どれだけ社会が変わっても、人が人を想う気持ちや「あったかさ」は、変わらない価値として残ると思います。そういうものが集まって、まちになる。だから僕はこれからも、近くにいる人を楽しませたいし、そのために動いていきたいと思います。

クロストークメイン画像

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