米澤穂信さん インタビュー
取材の際は、忠節橋から大縄場大橋の先まで、
長良川の堤防道路をずいぶん歩きました。
岐阜市をモデルにした小説〈小市民〉シリーズが、2024年夏にTVアニメ化されました。原作者である米澤穂信さんにインタビューを行い、物語の見どころや岐阜に対する思いを語っていただきました。
岐阜市をモデルに小説を執筆。
―小説〈小市民〉シリーズのモデルに岐阜市を選ばれた理由を教えてください。
■米澤:この小説を書き始めた20代半ばの頃、岐阜市に住んでいたからです。それが一番の理由ですが、他にもいくつか(ミステリのモデル地として)有力な点がありました。一つは、岐阜市は人口規模が大きく、都市型の話が作りやすいこと。それでありながら、農地などが広がる地域もあって、郊外を舞台にした話も作りやすい。事件にバリエーションをつけやすく、さまざまなミステリを構築しやすいまちだと思います。
―物語には、主人公たちが洋菓子店や喫茶店に行く場面もたくさんありますね。
■米澤:そうですね。その点についても岐阜市ならではの強みがあって、喫茶店の数が非常に多く、しかも生活の中に根付いています。ケーキを出すお店も多くて、「喫茶店に立ち寄ってケーキでも食べようか」というのは、割と岐阜に根付いた文化ではないかと思います。
―執筆にあたって、岐阜市内をかなり取材されたのでしょうか。
■米澤:シリーズの中でもっとも岐阜市を取材したのは、5作目の『冬期限定ボンボンショコラ事件』の時です。特に、長良川(物語では伊奈波川)の堤防道路が大きなポイントになるので、堤防道路の構造などを調べるために、忠節橋から大縄場大橋の先までずいぶん歩きました。
―シリーズが進むにつれて、登場人物とまちが関わる場面が増えていったように感じました。
■米澤:ご指摘の通り、1作目はミステリ空間としての濃度が高い。逆に言えば、どの土地でも成り立つ話ではありました。そこからシリーズが進むにつれて、主人公たちが「ミステリ世界の探偵役」という役割を超えて、実世界の人間としての思いや、人間として思わなければいけないことに直面していきます。それに従ってまちのリアリティが、「人が住んでいる場所」としてより実体を持つようになっていく。それが、シリーズを通しての傾向だと考えています。
岐阜のまちが元気になってきた。
―アニメ版『小市民シリーズ』をご覧になった感想を教えてください。
■米澤:小説をアニメやドラマなど別の形に移す際は、小説をそのまま再現するのではなく、一度分解して再構築する必要があります。分解と再構築によって監督やアニメ制作会社さんの作品にする。その意味で、今回素晴らしい再構築をしていただいたと思っています。
中身についてはこれからご覧になる方もいるのでなかなかお話できませんが、エンディングに、主人公の一人が金華山の上からまちを見下ろすワンカットがあります。あのカットは非常に印象的ですね。私は初めて金華山に登った時、はるか彼方まで広がる景色を見て感銘を受けました。歴史の中で岐阜城を掌握した人たちは、きっとこの地域すべてを掌握した気持ちになっただろうなと、そんなことを考えました。その印象的な景色をエンディングで取り上げていただき、とてもうれしく思いました。
―岐阜市に来られた際に印象に残ったことはありますか?
■米澤:2022年に岐阜市立図書館で講演させていただきましたが、とても素晴らしい図書館ですね。蔵書量も豊富ですし、選書の質も非常に良く、司書さんによる本棚の手入れが行き届いていると思います。単に「本を貸し出す場所」や「人が集まる場所」であるだけではなく、文化を受け継ぎ、新しい文化を生み出す拠点にしていく。そういう意志を感じました。
また、岐阜市の中心街に行った時の印象として、「自分たちの商売を始めよう」「新しい商売を作っていこう」という風潮が感じられ、昔よりもまちが元気になってきていると感じました。柳ケ瀬や金神社周辺で、若い方たちが楽しそうにキッチンカーを出したり商品を売っていたりする様子を見て、まちの活力を感じました。
―まちの活性化に取り組む若い世代の人たちにメッセージをお願いします。
■米澤:まちを楽しい場所にしていく時に、「場所」を用意するところまでは行政や開発する人たちが行うことかもしれません。でも、「ここは自分たちの素敵な場所なんだ」と考えて実際に作り上げていくことは、命じられてできることではありません。その場所を「生きたまち」にしていくのはまちの人たち自身であり、特に若い人たちの遊び心が大きな意味を持つと思います。またいつか岐阜に来た時に、「あー、楽しいまちになっているな」ときっと感じられると思うので、その時を楽しみにしています。
■米澤 穂信さん
1978年岐阜県出身。 2001年『氷菓』で角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞しデビュー。10年『折れた竜骨』日本推理作家協会賞、14年『満願』で山本周五郎賞、21年『黒牢城』で山田風太郎賞、22年同作で直木賞を受賞。近著に、岐阜をモデルにした『冬期限定ボンボンショコラ事件』。
■小市民シリーズ
シリーズ累計110万部を突破した米澤穂信さんの人気小説〈小市民〉シリーズがTVアニメ化され、2024年7月より放送。また、2025年4月からは第2期が放送予定。
©米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会
■ロケツーリズム推進事業
岐阜市では、観光誘客を目的として、映像作品などのロケの誘致・ロケの支援を行うロケツーリズム推進事業を積極的に進めています。清流長良川や金華山などの抜群のロケーションや、昭和の面影残る商店街のほか、市内の各地でこれまでに多くの映画、テレビ番組、CMなどの撮影が行われ、地域の魅力が発信されてきました。
投稿日:2024.12.23 最終更新日:2024.12.23