iju interview

Vol.5(片山輝さん、千鶴さん)

人生はもっと自由でいい。コロナ禍を機に決めた、岐阜市への移住と独立。

Interview QQ実験所 片山輝(あきら)さん、千鶴さん

Interview QQ実験所 片山輝さん、千鶴さん

コロナ禍で立ち止まり、
見つめ直した東京での暮らし

岐阜市長良に2022年5月にオープンした雑貨店「QQ実験所」。店主である山口県出身の片山輝さんと、岐阜市生まれの千鶴さん夫妻が、およそ20年にわたる東京での暮らしに疑問を感じ始めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけでした。

当時、ともに暮らしの道具を扱う会社「松野屋」の卸売部門で働いていたお二人は、生活を大きく変えざるを得ない状況に置かれ、“東京にいる意味”を考えるようになりました。

25歳で上京した輝さんは、同郷の友人の紹介で松野屋に就職しました。

25歳で上京した輝さんは、同郷の友人の紹介で松野屋に就職しました。

「あの時は外に出るのも不安で、でも卸売業はお客さんに荷物を送らないと何も始まらないんです。だから、休むこともできなくて。だんだんと余計なことばかり考えるようになり、精神的に疲れてきて…。このままではまずいなと思いました。年齢も40代半ばになってきて、動くなら今かなと」。(輝さん)

もしも自分が感染して会社に大損害を与えてしまったら…という不安から、感染してはならないというプレッシャーや、そんな状況下でも、毎朝満員電車で通勤していることに対する違和感…。考えれば考えるほど、この先の人生を東京以外の場所で送るという道がはっきりと見えてきました。

同時に、輝さんは勤続15年目、千鶴さんは14年目を迎え、会社員として多くのことを学んだうえで、いつかは自分たちの店を持ちたいという夢も持っていました。そこで、コロナが蔓延する最中だった2020年末から、千鶴さんの故郷である岐阜県内で住居兼店舗物件を探しはじめました。

内装は壁を塗り替えた程度で、大きな改修をせずにオープンすることができました。

内装は壁を塗り替えた程度で、大きな改修をせずにオープンすることができました。

東京都千代田区有楽町にある、ふるさと回帰支援センター内の「清流の国ぎふ 移住・交流情報センター」に相談をしながら、岐阜市や各務原市、八百津町など、県内各地を巡るも、価格や広さ、建物の状態など、条件に合う物件は見つからないまま半年が経過。そんな時、友人であり、岐阜市長良でパン喫茶「円居」を営む門脇さん夫妻からの紹介で出会ったのが、現在のお二人の住まいであり、「QQ実験所」を営む物件だったのです。

アメリカ製のキャベツの千切り機を活用したという看板。片山ご夫妻の遊び心が滲み出ています。

アメリカ製のキャベツの千切り機を活用したという看板。片山ご夫妻の遊び心が滲み出ています。

「もともと店舗として使われていたので、ほとんどリノベーションをする必要はなく、ちょうどいい広さで。しかも、お向かいが友人が営む『円居』さんだなんて、岐阜に呼ばれている気がして、もう即決でした!」(千鶴さん)

そして、お二人は2021年12月に岐阜市に移住。準備期間を経て、2022年5月に「QQ実験所」をグランドオープンしました。

肩肘張らない、岐阜市での生活

店舗の2階に住んでいるため、東京時代にストレスを感じていた通勤がなく、自分たちの店という責任は大きいものの、自由で納得のいく仕事ができる。東京から岐阜市への移住で、仕事と暮らしのバランスは時間的にも心情的にも大きく変化しました。

勤め先の「松野屋」で出会った輝さんと千鶴さんは、30代の頃、毎晩のように飲みに出かけ、よく仕事について熱く語り合っていました。自由度が高い会社で、仕入れから営業、販売、出荷まで全てを任せてもらえたため、東京での仕事は楽しく充実していたといいます。「コロナにならなければ、今もきっと、東京で働いていた」というほど。でも、千鶴さんは岐阜市に帰ってきて、ふっと肩の力が抜けたのを感じました。

東京では美容院に勤めたり、ガードマンを経験するなど、意外な経歴をお持ちの千鶴さん。

東京では美容院に勤めたり、ガードマンを経験するなど、意外な経歴をお持ちの千鶴さん。

「20歳で岐阜市を出てニューヨークに2年間留学して、その後は東京で働き、岐阜市に戻ってきたのは25年ぶりなので、もちろん変わっていることもあります。でも、地元の友人がいて、岐阜城はそこにあって、長良川が流れていて。その変わらない景色に癒されるんですよね。気を張らないでいられる自分がいて、東京ではすごく肩に力が入っていたんだなって」。(千鶴さん)

天然素材で手作りのものや、シンプルで使い手を選ばない商品にこだわっています。

天然素材で手作りのものや、シンプルで使い手を選ばない商品にこだわっています。

昔から、岐阜市のことは好きだったものの、もっと外の世界を見たいという思いから、関心は外へ外へと向かっていたという千鶴さん。大人になってから岐阜大仏の存在に気づいて感動したり、廃れていると思っていた柳ケ瀬商店街にサンデービルヂングマーケットのような賑わいが生まれていることに驚いたり、今でもまだ新しい発見がたくさんあるといいます。

また、自分たちの店舗を持ったことで、地域の方と自然に関わる機会ができ、同じように店を営む仲間と対等に話すことができるようになったことも、岐阜市での暮らしを充実させている理由の一つだといいます。物件が友人からの紹介で決まったように、小さなまちだからこそ、人との縁がどんどん広がっていく。その人と人とのつながりの濃さは、東京では感じづらい、岐阜市ならではの魅力です。

夫婦二人、長く続けていける店に。

商品は実店舗のほか、各地でのPOP UPやオンラインストアでも販売。

商品は実店舗のほか、各地でのPOP UPやオンラインストアでも販売。

大小さまざまな大きさや形のカゴ、一見すると用途に悩んでしまう不思議な道具、素朴で味わい深い器…。「QQ実験所」には、世界中から個性豊かな日用品や雑貨が集まっています。東京時代から長年にわたり、たくさんのモノを日本各地の雑貨店やお客さんに届けてきた片山さん夫妻が選ぶモノは、一つ一つじっくりと手にとってみたくなるものばかり。

銭湯の番台を思わせるレジカウンター。

銭湯の番台を思わせるレジカウンター。

「どこの国のものか分からない感じにしたいんです。『よく見ると実は岐阜のものだった…!』とか、もっと自由でいいじゃない。『何屋さんですか?』と聞かれるけど、何屋でもないし、最終的に何屋になるかわからないから“実験所”。何屋でもいいんですよ」と、千鶴さんは楽しそうに笑います。

すでに入浴剤や食品をリピートする近所のお客さんもいらっしゃるそうです。

すでに入浴剤や食品をリピートする近所のお客さんもいらっしゃるそうです。

たしかに、岐阜でつくられたという器も、こちらの棚に置かれていると、どこか異国情緒漂うものに感じられます。商品を仕入れる際に気に掛けていることは、できるだけ天然素材であることや手作りであることに加えて、男女問わず使えたり、使い手の世代を限定しなかったりと、“2つ以上の垣根が越えられる”ということ。誰か特定の人に向けられたモノではなく、幅広く使ってもらえるモノ。そんな商品の数々と、片山さん夫妻の朗らかな人柄が、お店の包容力につながっているような気がします。

たまたま通りかかって立ち寄るご近所さん、お向かいの「円居」さんのパンの袋を提げたお客さん、SNSで知って遠方からわざわざ足を運ぶお客さん…。駅からは遠く、日常的な人通りも少ない場所にあるため、開店前は一人もお客さんが来ない日があるのではないかという不安もあったそうですが、思いの外、さまざまなお客さんがここを訪れ、ほっと胸を撫で下ろす日々です。

今後は長良天神のお祭りなど、地域の行事にも参加していきたいと語る片山さんご夫妻。

今後は長良天神のお祭りなど、地域の行事にも参加していきたいと語る片山さんご夫妻。

「夫婦二人ですし、そんなに大きいことをやろうとは思っていないですが、この場所で細々と長く続けていきたいですね」。

岐阜のまちにまた一つ、思いのこもった小さくてあたたかい場所が生まれ、明るくのびのびとした夫婦の暮らしが始まっています。


QQ実験所
住所:岐阜県岐阜市長良福光2621-1
営業日:水・金・土・日
営業時間:11:00〜18:00
URL:https://www.instagram.com/qq_jikkenjo/

Share!

この記事をシェアする