iju interview

Vol.9(平塚悟さん)

クラフトビール醸造に副業で挑戦、地域と繋がりまちを楽しく。

平塚悟さん

平塚悟さん

北海道、東京、そして名古屋。
外の世界に触れ、岐阜にUターン。

「金華山エール」や「鵜飼レッドエール」、「やながせホワイト」。岐阜市伊奈波通に2022年3月にオープンした岐阜麦酒醸造に併設されたビアバー「Tap Room YOROCA」では、週末になると、多くの市民や観光客がまちのシンボルの名を冠したオリジナルのクラフトビールで喉を潤しています。

岐阜市初のクラフトビールブルワリーである岐阜麦酒醸造合同会社とTap Room YOROCAを営むのは平塚悟さん。平塚さんは製薬会社に営業職として勤める傍ら、2020年よりビール醸造家の道を歩み始めました。

定番のクラフトビール「金華山エール」「鵜飼レッドエール」「やながせホワイト」(左から)

定番のクラフトビール「金華山エール」「鵜飼レッドエール」「やながせホワイト」(左から)。

岐阜県垂井町出身で、中学時代にカナダのカルガリーを交換留学で訪れたことを機に、外の世界に興味が湧き、高校卒業後は北海道大学に進学した平塚さん。新卒で製薬会社に入社し、3年間にわたり北海道で勤務します。

その後、飲食店を経営することへの興味から、転職して東京の銀座にある紅茶専門店に勤めるものの、退職。垂井町の実家に戻り、心身ともに調子を整え、2007年に別の製薬会社に再就職して、名古屋へ移り住みます。飲食業界の厳しさを経験したものの、その魅力も感じていたため、「いつか自分のお店を持ちたい」という気持ちが改めて湧き上がってきました。

平塚悟さん
2009年には岐阜県内出身の奥様と結婚し、長男が小学校に入学する2017年4月に岐阜市での暮らしをスタート。当初は、奥様のご実家へのアクセスがよいエリアへの移住も検討していたものの、教育環境やハザードマップなど、より具体的な生活環境を調べる中で、岐阜市を選びました。

「子どもの頃は、岐阜市は寂れている印象だったのですが、30代になって帰ってきて、まちの景色が生まれ変わりつつあるように感じました」。

外の世界を見てきたからこそ、まちと自然の距離感や地域の人々の温かさなど、今まで知らなかった岐阜市の魅力的な一面が見えてきたといいます。

ビール醸造を副業でスタート、
地域と繋がるきっかけに

岐阜市に移住後しばらくして、勤務先の会社が副業を推奨していることも契機となり、改めて自分のやりたいことは何かを考えるようになったという平塚さん。副業をするなら、何か資格が必要だという考えからファイナンシャルプランナーの資格を取得するも、資格を取得するだけでは“できること”は増えても、自分が期待していたような“お客さんがつくこと”にはならないと気がつきます。

同時に、せっかく岐阜市に住んでいるのに、地域と繋がる機会がないことに勿体なさを感じ、何か自分の好きなことでまちと繋がり、まちを盛り上げることができないかと考えます。そこでたどり着いたのが、小規模な醸造所で手作りするクラフトビールの醸造でした。

清流長良川の水はとてもきれいで、ビール醸造にぴったりです。

清流長良川の水はとてもきれいで、ビール醸造にぴったりです。

「もともとお酒や飲み物は好きでしたが、ビール醸造はもちろん全く経験がありませんでした。やってみようと思ったのは、正直、本当に直感的なものですね」と、平塚さんは笑いながら振り返ります。

クラフトビールの発酵具合を確認する平塚さん。

クラフトビールの発酵具合を確認する平塚さん。

インターネットでビール醸造について調べる中で、日本にも兼業ブルワー(醸造家)がいるという情報が目に止まり、思いつきのアイデアが決して不可能ではないことを知った平塚さんは、すぐに全国10件ほどのクラフトビールの醸造所を見学し、独学でビール醸造や経営について学び始めます。もちろん、この間も本業とのバランスを取りながらの開業準備。岐阜商工会議所が主催する創業セミナーにも通いながら、徐々に醸造所立ち上げを現実のものに近づけていきました。創業セミナーでの起業を志す仲間との出会いは、とても励みになったといいます。

伊奈波神社へ続く参道にある岐阜麦酒醸造所。今日も清々しい空気が流れています。

伊奈波神社へ続く参道にある岐阜麦酒醸造所。今日も清々しい空気が流れています。

また、創業セミナーを通して、後に醸造所立ち上げのクラウドファンディングのサポートや、現在の醸造所の物件を紹介してくれた「NPO法人ORGAN」や「株式会社岐阜まち家守」のメンバーとも出会い、もともと創業する目的の一つであった地域との繋がりは、あれよあれよという間に広がっていきました。こうして岐阜麦酒醸造誕生のニュースは、開業前からまちの人々の注目を浴び大きな話題となります。

長良川をイメージしたブルーのタイルが印象的な内装。

長良川をイメージしたブルーのタイルが印象的な内装。

そして迎えた2021年3月の初醸造ビールのお披露目イベント。長良川流域でしかできない体験・アクティビティを行う「長良川おんぱく」のプログラムの一つとして長良川うかいミュージアムを会場に行われ、岐阜麦酒醸造は岐阜市初のブルワリーとして、晴れて地域の仲間入りを果たしました。

半径500メートル以内の
地域と人を喜ばせたい

平塚さんは今、本業の休日にあたる土曜日と日曜日のいずれかをビールの醸造の時間に充て、Tap Room YOROCAには時々顔を出しつつも、基本的にはスタッフに任せるかたちで営業しています。

平塚悟さん
平塚さんが起業をした2020年はコロナ禍の真っ只中。副業とはいえ、飲食業を始めるのには非常に不利な時期であったことは間違いありません。しかし、コロナ禍の影響で本業で、在宅勤務が増え、時間の使い方を見直すことができ、副業に費やせる時間が増えたため、むしろコロナ禍は千載一遇のチャンスだったと捉えています。

瓶ビールはお土産にもおすすめ。

瓶ビールはお土産にもおすすめ。

平塚さんが地域で事業をする上で、まず視野に入れている商圏は、半径500メートル以内。Tap Room YOROCAをオープンしたことで、その感覚はより強まりました。例えば新しいクラフトビールを開発するときには、常連さんの顔やまちの景色を思い浮かべます。そして、ビールの卸先は近隣であれば自社で配達することで、地元の方にも扱ってもらいやすくしています。

平塚悟さん
自分のやりたいことを副業で実現させることは、稼ぐことへのプレッシャーが軽減されて自分ペースで事業を継続できること、そして最初から完璧を求めずにチャレンジし続けられることが大きなメリットだという平塚さん。醸造所立ち上げから2年ほどが経つ今も、挑戦したいことは増える一方です。

瓶ビールのラベルには岐阜市を象徴する景色が描かれています。

瓶ビールのラベルには岐阜市を象徴する景色が描かれています。

現在は冬に向けて、岐阜の特産である干し柿を使い、寒い時期にゆっくり味わいたいクラフトビールを開発中。その他にも、近隣店舗との連携やまち歩きマップの制作など、平塚さんの頭の中にはビール醸造に留まらないアイデアがまだまだ溢れています。合言葉は“岐阜をもっと楽しく!”。まちの小さな醸造所から、明るく楽しい文化の輪が、ますます大きく広がっていきます。


岐阜麦酒醸造合同会社
住所:岐阜県岐阜市伊奈波通1丁目46 Tap Room YOROCA (岐阜町醸造所)
営業日:金・土・日
営業時間:金 17:00〜20:30 (L.O 19:45)、土・日 13:00〜20:30(L.O19:45)
URL:https://gifubeer.com/

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