iju interview

Vol.10(渡邉百恵さん)

人生は常に実験!地域を舞台に、独自の表現を楽しむ23歳のチャレンジ。

渡邉百恵さん

渡邉百恵さん

新卒で起業したのは、
“就職できなかったから”

渡邉さんの定位置はコタツ。すっかり商店街の日常風景に馴染んでいます。

渡邉さんの定位置はコタツ。すっかり商店街の日常風景に馴染んでいます。

2022年12月、岐阜市柳ケ瀬商店街にあるかつての靴屋「ニュー銀座堂」が、ギャラリーとして新たに生まれ変わりました。店先の小上がりでこたつに入り、道ゆく人々に「こんにちは!」と、元気よくあいさつをするのが、店主であり、ギャラリーを運営する「ひとやすみ事務所」代表の渡邉百恵さんです。

「お店をオープンしてから間もないので、今はこうして地域の人にあいさつすることが仕事のようなものですね。」

祖父が岐阜市で議員を務めていたこともあり、幼い頃から地域の人と関わることが多かった渡邉さんは、年配の方とでも歳の差を感じさせないほど、自然に世間話を楽しんでいます。

渡邉百恵さん

渡邉さんは岐阜市出身の23歳。高校時代までを岐阜市で過ごし、国際文化を学ぶため京都の大学に進学。卒業間際の2022年2月にひとやすみ事務所を設立し、4月には柳ケ瀬商店街のすぐ東側、美殿町商店街でカフェバーを開業。そのほかにも、演劇スクールやマルシェの運営を手掛け、12月にニュー銀座堂をオープンしました。
たった1年足らずの出来事だとは信じられないほど、ノンストップで駆け抜ける渡邉さん。一体どこからそのエネルギーが湧いてくるのか、原動力を聞いてみると、意外な答えが返ってきました。

「もともと起業をすることなんて全然考えていなくて、最初の事業であるカフェバーをやりたいと言ったのも、私ではなく友人なんです。」

美殿町の開屋内に店舗を構える「cafe& barひとやすみ」。店に立つのは店長の寺田匠吾さん。

美殿町の開屋内に店舗を構える「cafe& barひとやすみ」。店に立つのは店長の寺田匠吾さん。

実は、渡邉さんは就職活動には周りの学生と同じように取り組み、早々に京都のベンチャー企業に内定が決まっていました。しかし、就職前の研修期間に感じた違和感から内定を辞退。その後も、岐阜市内の企業に就職が決まり、手伝い始めたものの、価値観のずれにより、またも辞退を選択します。国際文化や多文化共生に関心があり、大学で専攻していたことから、日本語教師や青年海外協力隊などの道も検討しましたが、納得のいく進路が決まらず途方に暮れていました。

cafe& barひとやすみではドリンクやお菓子、軽食を提供しています。

cafe& barひとやすみではドリンクやお菓子、軽食を提供しています。

そんな渡邉さんに「一緒にカフェをやらないか」と誘いの声を掛けたのが、高校時代の同級生で、現在「cafe& barひとやすみ」の店長を務める寺田匠吾さんでした。寺田さんから誘いは思いがけないものでしたが、渡邉さんもいつかは人が集まる場をつくりたいという漠然とした思いを持っていたことから、その手段としてカフェを運営することに踏み切ることに。開業にあたっては、アルバイトでの貯金に加え、クラウドファンディングで50万円ほどの資金調達を行い、岐阜市が運営するスタートアップ支援事業「Neo work-Gifu」のサポートを受けながら、手探りで準備を進めました。

「不安がなかったわけではないけど、なんとかなる、なんとかする!という気持ちでしたね。よく若いのに起業するなんてすごいねと言われますが、就職できなかっただけなんです。就職できるものならしたかったですよ(笑)」

住む場所を探していたら、
いつの間にかギャラリーに。

2月に法人化、4月にカフェを開業し、実家がある岐阜市北部から美殿町商店街にある事務所兼店舗まで、毎日車で30分かけて通勤をしていた渡邉さんは事務所近くに住む場所を探し始めます。美殿町商店街に事務所を構え、岐阜市近郊で多くの空き物件のリノベーションを手がける建築設計事務所「ミユキデザイン」の末永三樹さんに相談を持ちかけると、5月にはニュー銀座堂の物件を内覧させてもらえることに。
まちなかで安く暮らせる場所を探すだけのつもりが、末永さんの「1階も空いているから何かやったら?」という一言で、突然、ニュー銀座堂開業の道が開かれることとなったのです。

靴屋「ニュー銀座堂」の店名を引き継ぎ、看板はそのまま残しています。

靴屋「ニュー銀座堂」の店名を引き継ぎ、看板はそのまま残しています。

カフェはすでに開業していて、ほかに特にやりたい店のイメージもなく、考えあぐねた結果、たどり着いたコンセプトが「自分と同世代の表現を後押しする」ということ。高校時代の部活で演劇と出会い、それからというもの脚本家として演劇に打ち込んできた渡邉さん。自分自身が表現者であるとともに、渡邉さんの周りには普段からアーティストやカメラマンなどたくさんの表現者がいます。そんな表現者たちがやりたいことや見せたいものを展示する場所として、ニュー銀座堂をギャラリーに復活させることを決めました。

1階のギャラリー、2階の住居ともにリノベーションはミユキデザインが担当。

1階のギャラリー、2階の住居ともにリノベーションはミユキデザインが担当。

大学を卒業したばかりの渡邉さんが柳ケ瀬商店街の空き店舗を住居兼ギャラリーとして活用するという噂は、瞬く間に地域に広がり、それはこの辺りでまちの活性化に取り組む「カンダまちおこし株式会社」の代表、田代達生さんの耳にも入ります。

「田代さんとは面識がなかったのですが、カフェにいらっしゃって、クラウドファンディングをうちでやらないか、それから銀行から融資を受けてみないかと声を掛けられたんです。」

同世代の友人と2人で共同生活を送っています。

同世代の友人と2人で共同生活を送っています。

カフェを開業する際にクラウドファンディングを経験して、その手続きの大変さを実感していたことから、今回はクラウドファンディングを行うつもりはありませんでした。
しかし、田代さんから提案があったのは、ローカルに特化したクラウドファンディング「OCOS(オコス)」で、岐阜市で開業するにあたって地域との繋がりや資金繰りの相談など、手厚いフォローを受けられることから利用してみることに。事業計画書の書き方から融資を含めた金銭面の相談まで、単なる資金調達以上に多くの手助けをしてもらい、わずか半年の準備期間でオープンに漕ぎ着けました。

自分の感覚に素直に、
やりたいことだけをやる

「最近、決めたことがあるんです」と、渡邉さんが話してくれたのが「やりたいことしかやらない。やりたくないことはやらない。」ということ。
何かを始める時に、他者からきっかけをもらうことが多かったり、自分自身の“やりたい”よりも、誰かの“やりたい”を応援することを軸としてきた渡邉さん。周りからは「若いのにすごいね」「女の子なのにえらいね」、そんな言葉を掛けられることも多く、事業そのものに対してどう評価されているのかがわからなくなり、時には落ち込むこともありました。周りからの期待に応えないとという思いが、大きなプレッシャーとなり、やりづらさを感じることも。

「自分がやりたいことだけをやる」というと、自由奔放に聞こえますが、それは誰かのせいにせず、自分自身が全ての責任を負うということでもあります。

今、渡邉さんがチャレンジしたいのは、ニュー銀座堂主催の企画展。そのためには、店舗としての発信力を高めて、表現者たちの利益に繋がるギャラリーに育てていく必要があります。そして、渡邉さんは商店街の店はその場所に人がいてこそ、魅力が高まっていくと考えています。だから、持ち前の明るさとコミュニケーション力を活かして、今は地域との関係性づくりに奮闘中。

渡邉さんが“ヨシコちゃん”と慕うご近所さん。

渡邉さんが“ヨシコちゃん”と慕うご近所さん。

「美殿町と柳ケ瀬の両方でお店をやってみて、こんなに近い距離なのにお客さんの雰囲気が違って、その比較がおもしろいです。お客さんが違えばコミュニケーションの取り方も違います。美殿町ではコタツは出せないですね(笑)」

小上がりのコタツは、夏になったら扇風機と簾に衣替えをする予定です。“みんなと同じ”を好まない渡邉さんは、そんな風にして、地域を舞台に自分だけの表現を楽しんでいるように見えます。

「人生は常に、自分自身を実験台にした実験だと思っています。これからも新しい実験を楽しんでいきたいですね。」

そう目を輝かせる渡邉さんの姿は、若さだけではない、大きなエネルギーに満ち溢れていました。


ニュー銀座堂
11:00〜18:00
火曜定休
岐阜県岐阜市柳ヶ瀬通2丁目15

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