ココカラ Interview Vol.3

社会人1年目。新たな土地で刻む、自分なりの暮らしのリズム。
羽根田雄仁さん

Interview 羽根田雄仁さん

初めての地方暮らし、
初めての社会人生活。

「岐阜県には移住するまで一度も来たことがなくて。正直、どんな土地かイメージは湧きませんでしたね…」。

少し申し訳なさそうに話すのは羽根田雄仁さん、28歳。東京都出身の羽根田さんが、岐阜市に移り住んだのは2021年4月下旬のこと。市内の設計事務所への就職がきっかけでした。

取材が行われたのは羽根田さんが暮らすシェアハウス。時折笑顔を見せながら、リラックスした表情で話してくれました。

取材が行われたのは羽根田さんが暮らすシェアハウス。時折笑顔を見せながら、リラックスした表情で話してくれました。

武蔵野美術大学大学院建築学科を卒業後、インターネットでアトリエ系設計事務所の求人情報を探していたところ、現在の職場である伊藤維建築設計事務所と出会います。勤務地を見ると “岐阜市”。持ち前の好奇心旺盛な性格に加え、コロナ禍で地方移住の流れが強まっていたことも背中を押し、移住を決めました。

「あまり抵抗はなかったです。むしろ、想像がつかないところに行くのはおもしろそうだなと思って」。

こうして、羽根田さんの初めての地方暮らしがスタート。就職が決まってから引っ越しまでの期間が短かったことから、身一つで岐阜駅前のビジネスホテルで生活を始めるも、縁もゆかりもない地でのホテル暮らしは早々に限界に。その時に連絡したのが、現在の同居人である根崎怜司さんでした。

話すことが好きな2人は、こうしてよく互いの近況や考えていることを語り合います。

話すことが好きな2人は、こうしてよく互いの近況や考えていることを語り合います。

「実は移住する前に、職場の所長から根崎くんが住んでいるシェアハウスを仮住まいとして紹介していただいていたんです。そこで内覧をさせてもらったら、すごくいい町家で。3ヶ月ほどのショートステイのはずだったんですが、根崎くんに『ずっと住ませてほしい』と頼んだんですよ。初対面なのに(笑)」。

お気に入りの観葉植物コーナー。岐阜に来てから寒さを凌ぐため即席のビニールハウスを設置。

お気に入りの観葉植物コーナー。岐阜に来てから寒さを凌ぐため即席のビニールハウスを設置。

突然の願い入れにも関わらず、根崎さんは二つ返事で同居を快諾。ともに社会人1年目の2人は、お互いに仕事が中心の生活。普段はそれぞれのペースで生活を送り、月に1度あるかないかの休日が重なる日に、一緒にドライブに出掛けることを楽しみにしています。

土地勘も、交友関係もまだ乏しい羽根田さんにとって、地域や人をつないでくれる根崎さんは非常に大きな存在。一方で、行動範囲が彼まかせになっていることは、これから乗り越えたい課題の一つだといいます。特定のコミュニティの中では、一人とつながるとそこからどんどん関係が広がっていくことは地域で暮らすおもしろさである反面、別のコミュニティの人と出会うためには積極的な行動が必要だということを、羽根田さんは肌で感じています。

憧れの建築設計の仕事では、
都会の刺激にも触れて。

古いビルの一角をDIYでリノベーションした事務所。

古いビルの一角をDIYでリノベーションした事務所。

職場である伊藤維建築設計事務所があるのは、岐阜市の美殿町商店街にあるシェアビルの一角。ビルには他にも、古書店や岐阜大学の研究室などが入居しています。通勤は引っ越してきてから譲ってもらった自転車で。通勤路の景色や空気が気分を切り替えてくれることも多いといいます。

伊奈波神社近くの自宅から職場までは自転車で10分ほど。

伊奈波神社近くの自宅から職場までは自転車で10分ほど。

「仕事は忙しいですが、働く場所が自分にとって“新しいまち”にあるというのが、リフレッシュになります。東京のように満員電車に乗るような環境ではないので、それも気持ちが全然違いますね」。

幼い頃からものをつくることが好きだった羽根田さん。大学院では建築を中心に学ぶなかで、プロダクト製品や家具など小さなスケールのデザイン設計にも興味を持ちました。それだけでなく、会場構成や工場などの大きな建造物に至るまで、一つの考え方に基づいてスケールを横断した設計の仕事に憧れて入社した伊藤維建築設計事務所では、同世代のメンバーと切磋琢磨しながら日々勉強を続けています。

端材を使って什器を設計中の羽根田さん。

端材を使って什器を設計中の羽根田さん。

仕事は岐阜県内と東京や京都といった県外の案件が半々ほどで、2ヶ月に1度程度は東京へ出張することもあります。

「名古屋までも電車で20分ですし、意外と東京が近いなと感じます。東京の友達には固い握手を交わし、今生の別れのつもりで出てきたのですが、全然そんなことなくて結構再会していますね(笑)。岐阜市は関東からも関西からも近くて、移住先にはちょうどいいのかもしれないです」。

まち並みや自然、人のあたたかさに心癒され、仕事では都会の仕事の刺激にも触れられる環境が、羽根田さんの岐阜市生活を豊かに彩っています。

自分なりの視点で、まちを楽しむ。

設計士という仕事柄、建築的な目線でまちを見ることが多いという羽根田さん。建物の壁面に残るかつて建っていた家の跡や、そこに差し込む光。昔何かがあったであろう空き地。休日によく訪れる柳ケ瀬商店街では、何気ない景色のなかに過去の商店街の営みの蓄積を感じています。

「東京ではここに行けばなんでもそろうという一点的な動きでしたが、柳ケ瀬には個人商店が残っていて、エリアの中のそれぞれのお店で買い物をするという体験は新鮮。それが本来の人間らしい暮らしだと思うんですけどね。無理に整備されていなくて、すごくいいエリアだなと思います」。

時間があれば毎月2回開催される「サンデービルヂングマーケット」にも足を運び、いつもとは違う表情の商店街を楽しみます。

時間があれば毎月2回開催される「サンデービルヂングマーケット」にも足を運び、いつもとは違う表情の商店街を楽しみます。

お店の人との距離が近いことや、まちの人同士がつながっていることも、都会育ちの羽根田さんにとっては新鮮な感覚だそう。まちにあたたかみがあって、移住者でも孤立しない。それは、単にまちの規模が小さいからというだけではなく、それ以上に“まちの人同士がコミュニケーションを取っているから”だと、羽根田さんの目には映っています。そして、羽根田さん自身も、例えばイベントの手伝いに誘われれば積極的に“巻き込まれ”て、少しずつその輪に加わり始めています。

また、山登りも岐阜でやってみたいことの一つで、金華山に登ることが近々の目標です。

「山って自分の暮らしている場所とは違うところにあって、わざわざ登りに行くものだと思っていましたが、ここではすぐそこの山に登りに行けますよね。きっと頂上からまちも見下ろせるでしょうし、生活と山が地続きにつながっているのがおもしろいなと」。

今は仕事が中心の生活。同僚に同世代の移住者が多いのも、心強い環境です。

今は仕事が中心の生活。同僚に同世代の移住者が多いのも、心強い環境です。

“新しい土地”であった岐阜市で、熱中できる仕事とあたたかい人々に出会い、気がつけばもうすぐ1年。これからも、羽根田さんは好きなことや自らの感性に誠実に、自分のペースで暮らしのリズムを刻んでいきます。