ココカラ Interview Vol.4

人とのつながりを大切に、夫婦で思い描く理想の店を。
熊田和将さん、麻菜さん

Interview 熊田和将さん、麻菜さん

出会いは福岡。
飲食店開業を夢見て岐阜市へ。

大垣市出身、岐阜市育ちの熊田和将さんと、福岡県北九州市出身の麻菜さんが出会ったのは、今から5年ほど前のこと。場所は福岡市にあるバー。当時、料理の勉強のため福岡市内の飲食店で2年間にわたり修業を積んでいた和将さん。行きつけのバーに、アルバイトとして新しく入ってきたのが麻菜さんでした。意気投合した2人は、2017年に結婚。同時に、自分たちの店を持つことを夢見て、和将さんの地元である岐阜市で新しい生活をスタートします。

料理人を目指し、福岡で修業をしていた和将さん。

料理人を目指し、福岡で修業をしていた和将さん。

「ずっと地元の岐阜市で飲食店をやりたいと思っていて。福岡に修行に出た時も、いずれは岐阜市で店を持つことを目標としていて、岐阜市に帰ってきてからすぐに物件探しを始めました」。(和将さん)

「正直、私は夢や目標がなくて。でも、純粋に彼と一緒にお店をやれたら楽しそうだなと、開業のサポートをするつもりで岐阜にきました」。(麻菜さん)

和将さんは開業資金を貯めるため、飲食系の工場に勤務。麻菜さんもカフェでアルバイトとして働き、二人で着々と準備を進めました。その頃、頭の中で膨らませていた店のイメージは、活気あふれる地元民向けの大衆酒場。福岡に行く前に岐阜市の飲食店で働いていた経験から、当時お世話になった方々への感謝の気持ちと、常連さんや友人と一緒に店を楽しみたいという思いが心のどこかにあったといいます。玉宮町や長住町といった、岐阜市のなかでも岐阜駅から徒歩圏内のエリアで物件を探していたものの、家賃や立地など納得のいく条件が揃った場所が見つからない状況が続きました。

赤い屋根が目印の古民家をリノベーションしたシェアレストラン「かもす食堂」。

赤い屋根が目印の古民家をリノベーションしたシェアレストラン「かもす食堂」。

そんななか出会ったのが、現在「らくだのパスタ×くるくる書房」として店を構えるシェアキッチン「かもす食堂」です。

自分たちの力だけでは無理だった。
人との縁がつないだ、店のオープン。

いつも明るく笑顔が絶えない麻菜さん。取材中も軽快なトークで場を和ませてくれました。

いつも明るく笑顔が絶えない麻菜さん。取材中も軽快なトークで場を和ませてくれました。

「あんなに物件探しに苦労していたのに、この場所を紹介していただいてからはあっという間だったよね。流されるように来ちゃった(笑)」。(麻菜さん)

かもす食堂は各務原市にある公園「学びの森」に隣接する古民家を改装した店舗で、複数の飲食店がシェアするかたちで営業をしています。当時、麻菜さんがアルバイトをしていたカフェ「KAKAMIGAHARA STAND」も同じ公園の中にあり、飲食店を始めるための物件を探している、と店長であり友人の清水弥生さんに相談すると「じゃあ、かもす食堂を使ってみたら?」と清水さん。岐阜市で開業することへのこだわりは捨てられなかったものの、シェアキッチンという形態が開業へのハードルを下げ、まずはやってみようと、半年間限定でお店をオープンすることに決めました。

かもす食堂

「大衆酒場を思い描いていたので、空間としてはイメージと全然違ったけど、いずれ岐阜市にお店を開くという前提で、まずはやってみようと。僕自身の飲食業の経験としてはイタリアンが一番長く、パスタなら自信を持ってお客さんに出せることからパスタ屋さんにしました」(和将さん)

自分たちのこだわりからは一旦離れ、建物のイメージに寄せて店作りを進めていった熊田さんご夫妻。店作りの過程では「パスタ屋だけでは弱いから、何か独自の要素を加えては?」という、かもす食堂オーナーの長縄尚史さんからのアドバイスを受け、店内の一室に設けたのが、物々交換式の図書館「くるくる書房」です。

くるくる書房の本棚にはあらゆるジャンルの本が並ぶ。

くるくる書房の本棚にはあらゆるジャンルの本が並ぶ。

「ヒッピー文化のような、金銭授受だけではないコミュニケーションの場をつくりたいという思いがあって、それを捻り出してかたちにしたのが『くるくる書房』ですね。お客さんは自分の本を1冊提供する代わりに、本棚の本を1冊持ち帰ることができる仕組みになっているんです。たまに知っている人の本に出会えたり、このまちの規模に合っているような気がしています」。(麻菜さん)

「らくだのパスタ」では、季節の素材を使った創作パスタを常時4種類ほど提供している。

「らくだのパスタ」では、季節の素材を使った創作パスタを常時4種類ほど提供している。

他にも、古民家の空間的なポテンシャルを活かし、居心地の良さを意識した自分たちの店づくりを進め、「らくだのパスタ×くるくる書房」は、2020年2月に念願のオープンを迎えました。

ちょっとした日常の舞台として、
“文化”を育む場になりたい。

普段は食事を提供する立場の熊田さんご夫妻ですが、二人揃って外食をしたり、お酒を飲んだりすることが何よりもの至福の時間なのだそう。仕事が終わると、岐阜市にある自宅に戻ってから飲みに出かけたり、休日にお客さんや岐阜でできた友人を誘って食事に出かけたりすることも多いといいます。岐阜市のまちなかで暮らし、各務原市で店を営むというライフスタイルを送るなかで、福岡生まれで、岐阜のことは何も知らなかった麻菜さんも今ではすっかりどちらの地域にも馴染んでいます。

柳ケ瀬商店街にある「ティダティダ」の店主の水野陽子さんとも親しく、麻菜さんのアルバイト先を紹介してもらいました。

柳ケ瀬商店街にある「ティダティダ」の店主の水野陽子さんとも親しく、麻菜さんのアルバイト先を紹介してもらいました。

「正直、岐阜は田んぼしかないイメージで、自給自足するつもりで来たので、友達もできて、飲食や買い物にも困らず、こんなに楽しく暮らせるなんてびっくりです。柳ケ瀬商店街が私の地元である小倉のまちとすごく似ていて、肌に馴染んだというのもありますし、何より出会う人が本当に好きなんです。それから、定食屋さんとか居酒屋さん、バーもちゃんとあって、これなら楽しめそう!って思いました」。

飲み屋で隣になればすぐに声を掛け、誰とでもすぐ仲良くなる福岡の県民性に対して、岐阜の人は警戒心が強い印象があったという麻菜さん。最初の3ヶ月ほどは、なかなか距離をつかめずに苦労をされたそうです。でも、一度親しくなれば人情深く、心温かい岐阜の人が、今では大切な存在だといいます。そんな福岡と岐阜の県民性の違いを麻菜さんは次のように話してくれました。

「福岡の人は今その時がどれだけ楽しいかを大切にする県民性があるんです。一方で岐阜の人は、一日一日、関係性や時間を積み重ねている感じがしますね」

「らくだのパスタ」では、今後は夜営業やイベントの開催も予定しているそう。

「らくだのパスタ」では、今後は夜営業やイベントの開催も予定しているそう。

また、店を続けるなかで、二人は自分たちの店が飲食店として食事を提供するだけでなく、“文化”を育む場所でありたいという思いが芽生え始めました。自らも音楽活動を続けている麻菜さんは、岐阜に来て身近にセンスの光る、才能あふれる若い世代が多いことに驚いたといいます。

福岡には、歌を歌ったり、写真や絵を展示したりと、日常の延長線上で少しだけ特別な舞台に上がれるような場所があったと言います。ともに30代半ばを迎え、今度は自分たちがそういう場所をつくりたい。そして、そこにはきっとみんなを笑顔にするおいしい食事が必要。まだ具体的ではないけれど、人々が集う“新しい公民館”のような場所に、二人で時間をかけて育てていきたい、そう考えています。

店の目の前に広がる「学びの森」は二人のお気に入りの場所。

店の目の前に広がる「学びの森」は二人のお気に入りの場所。

半年間限定のつもりで始めた店は、いつの間にか二人と、訪れる人々にとって大切な場所となり、2022年には2周年を迎えます。岐阜市での暮らしで築いた縁と、隣町での出店を機に広がった縁に支えられ、熊田さん夫妻はこれからも、楽しみながら日々を歩んでいきます。


らくだのパスタ×くるくる書房
岐阜県各務原市那加桜町3-202-2
11:00〜15:00(LO 14:30)水木金曜定休