投稿日:2021.10.21 最終更新日:2023.10.31
Vol.2(片山あすかさん)
転勤からはじまった岐阜市との関わり。まちも自然もわたしらしく馴染んでいく。
ゆかりのなかった岐阜のまちは
知れば知るほど愛おしく。
岐阜駅の北側に広がる柳ヶ瀬商店街。昭和30年代には全国でも有数の繁華街として栄えていましたが、平成に入り郊外の大型モールなどに客が流れると、人通りが徐々にまばらに。けれどもここ数年は、レトロな雰囲気をいかした新たなまちづくりがはじまり、市内外から訪れる人が増えています。そんな柳ヶ瀬商店街にある無印良品の岐阜高島屋店は、百貨店のテナントでありながら、独立した路面店、しかも商店街の中にあるという全国でも珍しいお店。そんな店舗で店長を勤めるのが片山あすかさんです。
「岐阜に転勤と聞いた時は、正直、何も思い浮かばないくらいに、これまで縁がなかったまちでした」
片山さんが岐阜市で働きはじめたのは、2020年9月。関東出身で、就職してからは広島県、山口県と西日本を転々としてきました。織田信長のゆかりの地であることも知らなかったくらい、岐阜については知識も関わりも薄かったそうです。
「名古屋からこんなに近いとは思っていませんでした! 電車1本で、20分くらいで行けるので便利ですよね」
また、想像以上に岐阜駅周辺に賑わいがあることにも驚いたそう。確かに、JR岐阜駅を北に出ると、昔ながらの定食屋や居酒屋、人々の暮らしを支えてきた八百屋や洋品店、洗練されたオシャレなカフェやセレクトショップ、こだわりあふれる古着屋や雑貨屋など、実に多彩な店がならんでいます。
「柳ヶ瀬商店街はレトロで、ノスタルジックな雰囲気もありながら、新しさも感じられてとてもおもしろいです! いろんな楽しみ方があって、知れば知るほど好きになりますね」
岐阜市で働き始めてちょうど1年。縁もゆかりもなかったまちは少しずつ、片山さんの暮らしに馴染んできています。
まちに巻き込まれて、
その土地ならではのお店づくりを。
無印良品では「地域に無印良品がある意味」を見出すため、地域や住民を主役として役立つことが何かを考え、全国の各店舗が独自の取り組みを行なっています。
片山さんも岐阜高島屋店で働きはじめてから、自分たちが先立って、というよりも「地域に巻き込んでもらう」形で、まちの方々と何を一緒にできるかを模索してきました。
「はじめてまちと関わった取り組みは、『OPEN SPACE LABO』*1です。通勤途中でたまたまイベントが開かれているのが目に入って。まちなかに無印良品のクッションを置いて、くつろげる空間を作れたらおもしろそうだな、と思ったんです」
*1:まちなかにある公共空間や空地の使い方を考えたり、試すことで、自分たちの手でまちを楽しくするプロジェクト。
早速、このイベントの企画に関わっているまちづくり法人「柳ヶ瀬をたのしいまちにする株式会社」にかけあってみると、快く受け入れてくれたそう。
「はじめは知り合いもいなくて不安もありましたが、柳ヶ瀬商店街の皆さんがとてもフレンドリーで、ありがたかったです」
特に、「柳ヶ瀬をたのしいまちにする株式会社」の社員で同い年の土肥さんとは意気投合!というのも土肥さんも移住者で、現在は柳ヶ瀬商店街のシェアハウスで暮らしています。片山さんも土肥さんも、市外出身という同じ境遇、まちと関わって盛り上げたいという同じ思いがあり、このイベントをきっかけに柳ヶ瀬商店街や岐阜市のことも色々と教えてもらうようになったそう。
地域のお店やイベント、そして何より地域の人を尊重しながら、無印良品らしくまちを盛り上げていくには何ができるのか。片山さんはまちに「巻き込まれる」ための働きかけを、主体的に進めています。
「無印良品の店舗を使って、商店街の方にイベントを企画してもらうこともあります。オリジナルの雑貨や服などを販売するPENGUIN BOOTS(ペンギンブーツ)さんには、無印良品の店舗でシルクスクリーンのワークショップを開催していただき、とても好評でした」
そのほか、店舗には岐阜市のまちに関するフリーペーパーやパンフレットなどが置かれていて、ローカルに根ざした店舗づくりに力を入れています。さらに、まちや人を知り、「まちに巻き込まれる」お店づくりを進める中で、挑戦したいこともでてきたそう。
「岐阜高島屋店ならではの企画ができないかなと考えています。例えば、岐阜市は和傘の生産が全国の中でも盛んでしたが、現在は製造に関わる職人さんが減ってしまって、今後作れなくなる危機にあるとお聞きました。けれども、こういった伝統工芸品自体があまり知られていないですよね。無印良品を通じて、伝統工芸品を知るきっかけをつくったり、伝統や文化を守ることにつながる企画ができればいいなと思います」
また、現在は柳ヶ瀬商店街の同年代の方々とのつながりが多いですが、今後は、商店街の歴史を支えてきた年配の方々とも関わりたいという思いも。より広く、より深く、まちの人とともに商店街を盛り上げる一員となりたい熱意が、柔らかな雰囲気の片山さんからひしひしと伝わってきます。
にぎわいも、ゆたかな自然も。
まちと関わる楽しさをみつけながら、
まちをつくる一人になる
勤務中の休憩時間には、柳ヶ瀬商店街に繰り出して一息つくことも。
「よく行くのは、『TIROL』さんです。コーヒーを買って、お店の方と雑談したり、商店街をのんびり歩いてリフレッシュしています。隣にあるセレクトショップの『phenom(フェノム)』さんも好みのものがそろっていて、よくのぞいています。昨年はコートを買っちゃいました!」
岐阜市に来てはじめてスタッフに教えてもらったという和菓子屋ツバメヤさんのもちもちしたどら焼きや、異国情緒あふれるスポット「アクアージュ柳ヶ瀬」も柳ヶ瀬商店街の中でお気に入り。
休日は長良川の近くまで足を伸ばして自然の中でリラックスしたり、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」まで足を運んだりと、岐阜市の多彩な見どころを楽しんでいます。
「特に何をする、というわけでもないんですけど、河川敷で長良川を眺めながらくつろいだり、おしゃべりしてリフレッシュしています。メディアコスモスは、何度行ってもエスカレーターを上ったときの木の格子屋根には見惚れてしまいます! 岐阜はまちと自然がコンパクトに楽しめるのがいいところですよね」
聞けば、片山さんは自動車を所有していないということ。「地方での暮らし」に車は必須、というイメージが強いですが、岐阜駅の周辺にはスーパーやドラッグストア、飲食店などがぎゅっと集まり、さらに少し北に行くと、長良川や金華山といった豊かな自然がすぐそこ。日々の買い物や用事は自転車で、たまの遠出は同僚や友人と一緒に自動車で、という暮らし方が片山さんにはしっくりきています。
「岐阜は遊びに来たり、働いてみるといいところがたくさん見つかります。けれど、私も転勤するまでは全然知らなかったので、そこがちょっともったいないですよね。商店街で好みのお店を見つけたり、少し足を伸ばして自然の中でレジャーをしたり。自分で楽しみ方を見つけられるところが岐阜の魅力なので、それがもっと多くの人に伝わるといいと思います」
仕事からはじまった岐阜のまちとの関わりは、いまは仕事という垣根を越えて、片山さんの暮らし全体へと広がっています。
「仕事が縁で知り合って、柳ヶ瀬商店街でおもしろいことに取り組んでいる方、特に『柳ヶ瀬をたのしいまちにする株式会社』の土肥さんや『PENGUIN BOOTS』の杉山さんには、仲良くさせてもらっています! おうちにお邪魔させてもらったり、個人的に食事に行ったり…岐阜のおすすめの場所にもたくさん連れて行ってもらってます。
転勤というと、知らない土地で暮らすことが大変だと思われがちですけど、こうやってその地域でしか出会えない人や文化を知って、つながりが生まれることが、私にはとても刺激的です。岐阜のまちでは特にそのことを実感しますね」
仕事を通じてまちと関わることが、結果として仕事にとどまらず、自分自身の幅も広げていく。片山さんには、そんな実感が自身だけでなく、身近な人にも芽生えたら、という想いも生まれています。サンデービルヂングマーケット*2やリノベーションスクール*3など、外からも関わりやすい場がある岐阜や柳ヶ瀬商店街のまちには、そんな土壌があるのかもしれません。
*2:毎月第3日曜日に柳ヶ瀬商店街で開催される「手づくり」と「こだわり」の詰まったライフスタイルマーケット。
*3:不動産の再生を通じて、まちで新しいビジネスを生み出し、エリアを再生するための実践型スクール。
「今は店舗全体というよりも、私個人が柳ヶ瀬商店街の方々と関わっていることが多いんです。だけど、ゆくゆくは店舗で働くスタッフ一人ひとりが、もっと地域と関わっていけるといいなと思います。地元のスタッフが多いので、地域と関わって、自分たちのまちに愛着を持てるようになれば、まちはもっと魅力的になると思うんです」
たった1年前からの関わりとは思えないほど、当事者として、地域のことを捉えている片山さん。楽しみ方がたくさんある岐阜のまちだからこそ、新たに関わろうとする人をしなやかに受け止め、そしてまた、片山さんのような人がまちに新たな魅力を生み出していくのかもしれません。