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Special Feature 02

「住む」と「働く」がつながる日常 築100年を超える町家で始まること

門脇和正さん・磨奈美さん

「町家に住みたくて、2年くらい空き家を探しました。その中で偶然見つけたのがこの家です。中を見せていただき、『ここしかない』と思いました」。門脇和正さんと磨奈美さんは、築100年を超える町家との出会いをそう振り返る。建物のオーナーは当初、家を貸したり売ったりすることに前向きでなかったが、何度も会いに行くうちに熱意が伝わり、最後は「あんたらならええわ」と言った。
購入した家は町家特有の奥に長い造りで、11の部屋があった。表通り沿いの部屋は、かつて甘納豆屋さんの店舗として使われていたという。それを知り、「何かここで商売ができたらいいな」と思い始めた。
その頃、磨奈美さんが続けていたのが、パンづくりである。やがて知人から「教えてほしい」と言われるようになり、教室を開くことにした。しかし2年ほど続けるうちに、あることに気づいたという。
「人に教えることよりも、パンに合わせた食事をつくることにやりがいを感じたんです。それを表現する場をつくろうと思い、パンと食事の店を始めることにしました」
かくして2011年にオープンしたのが「円居(まどい)」である。当初は月に1日のみの営業だったが営業日を増やし、2階を改装して席数も増やした。オープンから10年が過ぎ、人気店としての地位を確立した。
門脇さん夫妻には中学生の息子がいる。自宅(数年前、離れのあった場所に住居を新築)は磨奈美さんの店と和正さんの設計事務所の奥にあり、常に働く両親の姿を見ながら生活している。「住む」と「働く」がつながった暮らし。ここが甘納豆屋さんだった数十年前にも、きっと同じ日常があったのだろう。

門脇和正さん「今年の夏、『店でアルバイトしてみない?』と息子に声をかけてみたら、『やる』と言ってくれて。店のスタッフに指示されながら一生懸命働いていました。子どもと一緒に働くという貴重な経験ができました」と磨奈美さんは言う。
古いものに愛着を注ぎながら暮らす日常。そこには、建築家としての和正さんの考えが反映されている。「現代的なものにも、過去につくられたものにも、等しい価値があります」。自宅を建てる際も、時代の融合を意識したという。
「新築の建物だけどアンティークの家具が似合い、逆にそれが新しく見えるような。そういう感じを意識しました。古いものも新しいものも、和も洋も、等価なものとして扱っていくというスタンスは、設計において私が一貫して大切にしてきたことです」

円居内観
2021年、和正さんの手で行われたのが、円居の改装である。コロナ禍の対応としてテイクアウトの売り場を広くするなどして、7月にリニューアルオープンした。その際、常連客からは店の雰囲気が変わることを心配する声が聞こえてきたそうだ(もちろんその心配は杞憂で、以前の雰囲気はしっかりと保たれている)。この店に対する常連客の愛着が伝わるエピソードだ。
「これほど多くのお客様に必要としていただける店になることを、オープン当初は想像していませんでした。今の状況は自分の想像をはるかに超えています」と磨奈美さんは話す。やりたいことを小さく始め、できることを一つひとつ増やしていく。そうして着実に、門脇さん夫妻はそれぞれの仕事の評価を高めてきた。この場所に住み始めたことが今の自分たちにつながっていると、和正さんは振り返る。
「町家に住まなければ、店を開くこともありませんでした。場所があるからこそ、物事が動くのだと思います。近年注目されている、定住場所を持たない暮らしとは、真逆の考え方ですね。根を張って生きるから、全力で勝負できる。私たちはそう思っています」

円居外観


■ 門脇和正さん・磨奈美さん
夫の和正さんはELEPHANTdesign代表。建築家として住宅や商業施設の設計を手がける。また長良川リバースケープLLPの一員として長良鵜飼屋にある&n(アンドン)の運営にも携わる。妻の磨奈美さんはパンと喫茶の店「円居」を経営する。


■ 円居
【住所】岐阜市長良142-1
【お問い合わせ】 058-374-0820

 

 

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