Taste 01 / 人とつながる
西岐阜で「ノットカレー(NOT CURRY)」を営む鈴木輝彦さんの、元の職業は会社員。父が経営する光学機器メーカーで働き、いずれは跡を継ぐつもりでいた。しかし、30歳になる頃、転機が訪れる。会社の方針について父と意見が食い違うことが続き、退社を決めたのだ。次に選んだ仕事は、個人投資家。運用成績は良好だったが、数字を見つめるばかりの毎日に苦しさを感じるようになった。
当時特に辛かったのは、人に会う機会が少なかったことだという。もっと人に会って、話をしたい。だから次は、店の経営をしたい。その思いを知り合いの先輩経営者に話し、アドバイスを受けながら構想を固めていった。そうして2015年1月にオープンしたのが、ノットカレーである。懇意にしていたスープカレー店からレシピを受け継ぎ、そこに鈴木さんがアレンジを加えてメニューを決めた。店名の通り、従来のカレーとは一線を画すスープカレーの味に、やみつきになる客は多い。
多くの年代のお客さんから支持され、順調な店舗経営を続けている鈴木さん。しかし、一つだけ心残りがあるという。「父にこの店を見せられなかったことです。父は病気を患い、店がオープンする3か月ほど前に亡くなりました」。実家の会社を退職して以来、鈴木さんと父の間の連絡は途絶えていた。しかしある時、兄弟からの連絡で父の病気を知り、再び会うようになった。見舞いに行くと、父は鈴木さんと2人きりになることを望み、こう言った。「自分の時間は長くないと思う。だから、残った家族のことを頼む」。最後まで自分を信頼してくれた父の想い。2020年に2店目を名古屋に出すことになった時、父の誕生日である3月12日をオープン日にした。
店づくりを進める間も、店ができた後も、一人の人間として人と付き合える喜びを感じてきた。お客さんや店のスタッフ、さまざまな人と共感し合える場面を鈴木さんは大切にしている。
「この店で人と会う。そのことが、特に若い世代の人たちにとって何かのきっかけになればいいと思っています」
■ ノットカレー(NOT CURRY)
2015年1月のオープン以来、幅広い客層で賑わうスープカレーの店。たっぷり入った野菜とスパイスの香りが食欲をそそる。開放感のあるブルックリンスタイルの店は、ゆっくりと食事を楽しむのにぴったりの場所。岐阜店に続き、2020年には名古屋店もオープンした。
【住所】 岐阜市薮田東2-5-12
【お問い合わせ】 058-215-5395
投稿日:2022.01.05 最終更新日:2022.01.05