Taste 01 / サードブレイス
美殿町商店街の一角に、小さな飲食店などが集まる開屋というスポットがある。2022年4月、この場所に誕生したのが、カフェ&バー「ひとやすみ」だ。高校時代の同級生である渡邉百恵さんと寺田匠吾さんが共同経営している。
飲食店を立ち上げたきっかけは、2021年に大学4年生だった渡邉さんが市内のレンタルスペースで期間限定のカフェを開いたこと。パートナーを探す中で思い出したのが、お菓子づくりが得意な寺田さんの存在だった。寺田さんには本業があったが、週末に店を手伝ってくれることになった。
「自分が作ったものをお客さんに提供し、自分の目の前で喜んでいただける。初めてそういう経験ができ、すごくやりがいを感じました」
と寺田さんは振り返る。数か月にわたって不定期営業したこのカフェには、2人の友人がたくさん足を運んでくれたという。この時の渡邉さんは、大学卒業を控えた時期。就職先が決まっていたが、ある理由で辞退することになった。別の就職先を探そうか、それとも思い切って自分の店を作ろうか。悩む気持ちを寺田さんに伝えたところ、意外な言葉が返ってきた。
「百恵がやらないなら、俺一人でもやるよ」
この時すでに、寺田さんは勤め先を辞めて飲食の道に進むことを決めていたという。前向きな言葉が、渡邉さんの背中を押した。
「寺田君の考えを聞いてちゃんと店を構えようという気持ちになりました」
同じ頃に知ったのが開屋の存在である。オーナーに出店の希望を伝えたところ、温かく受け入れてくれた。厨房機器や備品などの初期費用は70万円ほどで、一部をクラウドファンディングで賄った。友人や家族だけでなく面識のない人からも支援が集まり、出店にこぎつけることができた。
「思い切って自分の店を持ったからこそ気づけたことがあります」
と寺田さん。期間限定のカフェを開いた時は一人でも多くのお客さんを集めることが重要だったが、常設の店では事情が異なる。地道に商品力を高め、店自体の魅力で勝負することが必要だと感じた。現在、商品開発は主に寺田さんが担っている。そのこだわりに共感し、頻繁に通ってくれるお客さんも増えてきた。
「僕と同い年の男性のお客さんで、チラシに書いた商品に興味を持って定期的に通ってくださる方がいます。商品に対する細かいこだわりに気づいてもらえるとうれしいですね」
一方で渡邉さんは、少し違った視点で手応えを感じている。
「友だちから言われてうれしかったのは、『ここに来ると知らない人と出会えるからワクワクする』という言葉です。店を作って良かったと思えました」
大学時代にサードプレイスやまちづくりについて研究してきたという渡邉さんは、人と人がつながる場所やきっかけを作ることに関心を持っている。いま特に力を注いでいるのは、岐阜を面白いまちにするための拠点づくりだ。2022年8月から柳ケ瀬の3階建てビルを借り、新たな事業を始めた。
「若い人たちが岐阜のまちを巡回するためのコースを、自分たちの手で作りたいと思っています。岐阜には面白い人がたくさんいて、魅力ある場所もたくさんあります。岐阜の魅力に気づいていない人に、とにかく一度柳ケ瀬や美殿町に出ておいでよ、と伝えたいと思います」
未経験でも、やりたいことを思い切って始めてみる。そんなまっすぐさがたくさんの人を動かしてきた。二人の若者が立ち上げた小さな店から、岐阜の新しい文化が生まれようとしている。
■ カフェ&バー ひとやすみ
2022年4月、岐阜市美殿町の開屋にオープン。高校時代からの友人である渡邉百恵さんと寺田匠吾さんが共同経営する。看板メニューのプリンやカヌレのほか、ティラミスやチーズケーキなどこだわりのスイーツを味わうことができる。
【住所】岐阜市美殿町46
【お問い合わせ】050-3395-2104
投稿日:2023.01.20 最終更新日:2023.12.07