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若者たちへ、まちの「先輩」が届ける言葉

教えて!パイセン!

岐阜市の高校を卒業して
19歳でモデルとして活動を始めた後、名古屋での店舗経営などを経て、
2023年にLIVE A LIFEInc.という会社を立ち上げた大岩さん。
今まで、どんなことを考えながら新しいことに挑戦してきたのでしょうか。
次の岐阜市を担う若い世代にお届けしたい、「まちの先輩」の熱いメッセージです!

大岩拓己さん

LIVE A LIFEInc./代表取締役CEO、KIMIDORI FARM PROJECT/Founder、Model、米農家。
家業の米農家の事業を皮切りに、岐阜を拠点に活動。生産サイドに身を置きながら起業家としてさまざまなプロジェクトに携わり、「農」×「クリエイティブ」の新しい形を提案。お米と柑橘系の果樹に特化した農家として活動する中で、「支援や体験も伴う課題解決をクリエイティブに敢行していく」を目的にファームプロジェクトを立ち上げ、6次産業(生産・加工・販売)まで担うものづくりを行う。

次の世代と切磋琢磨しながら、
いいまちをつくりたい。

ノウハウはなくても、
まず始めてみる。

―世の中には、自分のやりたいことができずに
迷っている人も多いと思います。大岩さんの場合はどうでしたか?

人生は一回しかないので、やらなかったら後悔する。僕はそう思っているので、やりたいことは全部やってきました。たとえば19歳でモデルの仕事を始めた後、当時住んでいた名古屋では自分のやりたい仕事ができず、東京に出たこともあります。その後もアパレルの会社で社員になるなど転機がありましたが、大きな決断をしたのは、28歳の時ですね。スタイリストをしている友人から「飲食店を始めたい」という相談を受け、「じゃあ一緒にやろうか」と、名古屋で「re:Li」というカフェを立ち上げました。

―その時点で大岩さんたちは、飲食店経営のノウハウがなかったわけですよね。なぜ、チャレンジできたのでしょうか。

確かに、ノウハウはなかったですね。ただ、僕たちはいろんな店やイベントに行くのが好きだったので、自分の目で見てきたものがいっぱいあったんです。そうして見てきたものの真似事を始めた感じでした。あとは、やりながら学んでいきましたね。計算の上で「原価に対して利益がこれだけで…」と想定することはできますが、実際にその通りにやってもうまくいかないことが多い。だから、その場その場で勉強しながらやってきました。

―たとえば「2、3年かけて計画を立て、お金も貯めてから店を始める」というやり方もあったと思います。
そうしなかったのはどうしてですか?

いま自分たちがやりたいカフェが、2年後、3年後のニーズに合っているか、というのは分かりませんよね。目まぐるしく変化している時代に、2年、3年かけて準備をしようという考えが、そもそもスピード的に遅いと思います。また僕は、「十分な貯金をしてから何かにチャレンジする」ということを今までしてきませんでした。「時間を買う」と解釈してお金を借りるのは、一つの有効な手段だと思います。「re:Li」のオープンから2年ほど後に、同じビルの3階にギャラリー&ショップ「THINK TWICE」という店を作りました。その翌年には名古屋の栄に「maison  YWE」「&EAT」という2つの飲食店をオープンさせました。

―1年に2店舗も!
どういう経緯だったんですか?

大きな会社の洋服屋さんがあって、その店に併設する形で飲食店をつくることになったんです。たまたま2店舗のオープン時期が重なりました。その会社の会長さんから、「運営していく時の家賃は出してもらうけど、店を作る時に必要なお金はこちらで出す。だからあなたたちのアイデアを提案してほしい」と言っていただいて。

―すごくいい話ですね。

確かにいい話なんですけど、大きなお金をかけて店をつくるなんて、やったことがないわけです。「200万円のコーヒーマシンを入れたい」と会長さんに伝えると、当然「これでなきゃいけない理由は何?」「どれぐらいの期間で回収できる?」と聞かれ、理由を答えなければいけません。今まで誰にも教わっていないことを一つひとつ誰かに聞きながら、叱られながら、手探りでやってきました。予想外のことに直面した時、どう壁を越えるかについては、「一人ではなくチームで取り組む」というのが重要だと思います。チームで作り上げる意識を持ち、その中で自分がどのポジションで貢献するかを考えながら仕事をすれば、一つひとつ壁を乗り越えていけると思います。

―その時の大岩さんは、会社内でどんな役職だったんですか?

役員が3人いるうち、僕は飲食の統括マネージャーという形で、すべての店を統括しながら会社全体の経理的な部分も担当し、COOみたいな立ち位置で仕事をしていました。

―13年間、店舗の経営に関わった後、大岩さんは2022年に会社を辞め、岐阜で農業を始められました。今の仕事の概要を教えてください。

親族の実家が兼業の米農家をしていて、その仕事を2022年秋から一緒にやっている感じです。企業のイベント企画制作をメインで行う広告代理業と、米農家の兼業農家という形で、「LIVE A LIFEInc.」という会社を経営しています。僕がいろいろなプロジェクトに取り組む中でめざしているのが、「クリエイティブ」×「農業」の新しい形を提案することです。長く農業の世界にいる人間ではないので、作り手の課題を少し違った視点で解決できないか、ということを考えています。

700個のはっさくを使って
何ができる?

―農業の課題を実感した例があれば教えてください。

うちでは秋にお米の収穫が終わり、冬は柑橘系の果物が採れます。はっさくがたくさんできるのですが、ある時「これは全然売り物にならない」と言われました。聞けば、800個採れたうち売れるのは100個くらいで、残りの700個はすごく安い値段でしか買ってもらえないというのです。売れない分は収穫せず、木からボトボト落ちて、そのまま肥料になっていました。でも、飲食業をしていた立場からすると、すごくもったいない感じがしちゃって。「自分で何とかできないかな」と考え、真冬でしたがとりあえず余ったはっさく700個を全部たわしで手洗いしました。そのはっさくを使ってできることを調べる中で、たまたまご縁があってクラフトビールを作ることにしました。そうしたら結構反響があり、岐阜と名古屋、東京、広島などで売るポップアップイベントみたいな企画を立ち上げ、各地をまわりました。

フードレスキューしてクラフトビールを作るのは手間がかかるので、たぶん大手の会社はやらないけど、僕は大事なことだと思っています。「SDGsの観点で・・・」とかいう以前に、そもそも困っている人がいるなら助けたい、というシンプルな話です。ただ「フードロスにならなかったね」と言うためには、最終的に売れなければいけません。だからこそ、商品を作ってお届けするまでをしっかり実行する必要があると思います。

―クラフトビールは売れたんですか?

300本作って、全部売れました。買ってくださる方の中に、「応援したいから買う」という気持ちも絶対にあると思うんです。「実ははっさくが余っちゃって、自分で全部手洗いしたんです」「ビールを作ることによって無駄にならずに済みました」みたいな話をすると、多くの方が「じゃあ飲んでみます」と言ってくださいます。あるイベントで売った時も、「インスタグラムで見ました」と言って買ってくださる方が多くて、すごくびっくりしました。

「農家って楽しいよ」
と言える未来を。

―農業の課題として、他にどのようなものがありますか?

たとえば後継者問題も大きくて、せっかく機具やリソースがあるのに農業のやり方が継承されず、農業をやめてしまう例があります。あとは、販売先が限られていて、他の売り方を知らないというケース。そういういろんな課題を打開するための選択肢を増やせるといいと思っています。新しい取り組みとしては「agmiruアグミル」という農業のポータルサイトの運営が、まさにそういった課題を解決するものです。異業種との協業によるメリットが出始めています。「今までとは違うけど、このやり方もありだね」と優しく共有できるような、新しい成功体験を作ることが、自分のミッションだと考えています。過去のレガシーに引っ張られた狭い村社会ではなく、柔軟でプログレッシブな農家をめざしていきたいですね。「農家楽しいよ、最高じゃん」って胸を張って言えるようにしたいと思っています。

―大岩さんは「サンデービルヂングマーケット」にも
関わりがあると聞きました。

はい。一回目の開催から関わっていて、毎回コーヒースタンドと物販の店を出店していました。また、「こんなお店があったら面白そう。柳ケ瀬の景色が変わりそうですね」という感じで、ワクワクしながら企画にも関わらせてもらいました。僕にとって柳ケ瀬は、高校時代によく来ていた思い出深いまちです。そういう場所で今、いろんなことに挑戦している人たちがいる。そこに自分も協力したいと思うんです。僕は、名古屋でもいろんなことをやってきましたが、やっぱりふるさとと呼べるのは岐阜なので、思い入れを持って岐阜に貢献したいと思います。

―次の時代の岐阜を担う若い人たちと、
どう関わっていきたいですか?

世代のクロスオーバーに大きな可能性があると思います。若い世代の人たちが得意なことと、僕らが経験を活かしてできること。その両方をからめられればお互いに切磋琢磨できると思います。伝えたいのは「一緒にがんばろう」ということですね。世代や業種の垣根を超えたチームを作り、化学反応を起こす。それが、岐阜がいいまちになることに結びつくと思います。新しい世代と切磋琢磨できる遠慮のない関係性を築き、一緒にいいまちにしていきたいです。

―最後に、何かにチャレンジしている若い世代の人たちに
メッセージをお願いします。

新しいことをしようとすると壁に直面することもあると思いますが、壁を乗り越えるための近道とかワープなんてなくて、本当にコツコツと積み上げていくことが大事だと思います。人と比べるより、「昨日の自分をちゃんと越えているか」の方が大事で、それを続けていけば壁を乗り越えていけるんじゃないでしょうか。壁なんて何歳になってもなくならないし、僕も農家としてはまだまだ新米で、現在進行形で壁に直面しています。でも、そういう時って実はチャンスだと思うんです。力ずくで越える方法もあるし、工夫して梯子を作って越える方法もある。そのプロセスを、とにかく楽しんでほしいと思います。

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