投稿日:2023.10.19 最終更新日:2024.01.19
Vol.15(古海称太さん)
東京でも故郷でもないまちで、
人と人が緩やかにつながる空間を。
コロナ禍と子育てをきっかけに、東京から岐阜市へ
2023年9月、岐阜市司町にカウンターとテーブル3席の落ち着いたカフェがオープンしました。店の名前は「yoknel(ヨクネル)」。窓から覗くアンティークの家具やグリーンで洗練された空間に、道行く人がふと足を止めます。
「店名はオープンギリギリまで悩みましたね。“yoknel”の由来はそのまま“よく寝る”です(笑)。僕、すぐ寝ちゃうんですよ。いっぱい食べて、よく寝て…そんな気持ちを込めています」。
リラックスした笑顔で出迎えてくれるのは、店主の古海称太さんです。古海さんは長野県飯山市出身。2022年11月に奥さんと4歳の息子さん、そして愛犬のロアちゃんとともに、家族で東京から岐阜市にある奥さんのご実家に移住してきました。
もともと東京からの移住を検討していた古海さん。タイミングは「子どもが小学生になるまでに」と考えていました。その予定を大幅に早めたのは、コロナ禍での夫婦それぞれの働き方の変化と子育て環境でした。
大学時代から飲食業に携わり、勤めていた企業でコーヒーの焙煎やクラフトビールの醸造を行いながら、トレーラーでイベント出店もしていましたが、新型コロナウイルスの蔓延により仕事が激減してしまいます。また、奥さんはWEB関連の企業に勤めており、完全にリモートワークに。そして、お二人の両親がそばにいない中での都会の子育ては苦労が多く、東京からの移住を予定よりも早く決めました。
古海さんが岐阜市を初めて訪れたのは奥さんと出会ってからのこと。想像していたよりも人通りは多く、お店を営む場としても好印象で、岐阜市での開業に不安や抵抗はありませんでした。さらに、奥さんは完全リモートワークが継続していたことから、転職することなく引っ越すことができたのも、移住へのハードルが下がった大きな要因の一つでした。
当初は、古海さんの地元に近い長野県内への移住とそこでの開業を見据えていましたが、子育てをするにあたって、奥さんのご実家で、子育てのサポートをしてもらえるご両親とともに暮らすことが、体力的にも精神的にもベストだと考え、岐阜市への移住を決断しました。
新たな暮らしがもたらした子どもの成長
古海さんと奥さん、息子さん、ロアちゃんに加えて、奥さんの両親も含めた家族5人と1匹での新たな暮らしがスタートして、最も大きな変化は息子さんの会話力の向上でした。東京では大人と触れ合う機会が少なく、古海さんご自身が仕事の都合で帰宅時間が遅かったため、息子さんの話し相手はほとんど奥さんだけ。食事や入浴などワンオペでの子育ては、奥さんにとって体力的にも精神的にも負担が大きく、余裕を持って話を聞いてあげられないこともあったといいます。
岐阜市での新生活が始まってからは、ご両親のサポートがとても頼りになるとともに、息子さんは大好きな祖父母と過ごすことで、一気に会話が増えました。その結果、息子さんの語彙がみるみる豊かになり、古海さんご夫婦はとても驚きました。
子育てと仕事の両立による奥さんのストレスも軽減。両親には困ったときに気兼ねなく頼ることができ、生活に余裕が生まれました。
また、引越しが11月だったことから、春からの幼稚園への入園手続きにはギリギリのタイミングでしたが、待機することなくスムーズに入園を迎えることができ、安心して新生活を送ることができています。
東京で暮らしていた頃から、趣味のキャンプを楽しんでいたという古海さんご一家。岐阜市に移住してからは、車で1時間程度で、より気軽にキャンプ場に行ける環境となり、休日には家族揃ってよくキャンプに出掛けているそうです。
立ち寄れば誰かがいる、そんな“場”を目指して
yoknelを構えるのは、岐阜市役所やみんなの森 ぎふメディアコスモスなど、公共施設が集まる地域です。
「ここは何かと“用”が多い地域なんです。何かのついでに立ち寄ってくれるお客さんが多くて助かりますね」。
物件は自宅から通うのが便利で、あまり混み合っておらず、落ち着いたエリアを条件に不動産サイトで情報収集。この場所を見つけて「ここだ!」と、迷わず契約。およそ3ヶ月の工事期間を経て、9月中旬にオープンを迎えました。
提供するのはコーヒーとクラフトビール、そしてベトナムのサンドイッチ、バインミー。
コーヒーは東京で働いていた時から縁のある焙煎所の豆を、クラフトビールは故郷の長野県にある醸造所のビールをサーバーで、バインミーは奥さんの学生時代の同級生夫妻が営む一宮市のパン屋、ことりベーカリーさんのパンを使っていて、サンドする具材は定期的に入れ替える予定です。
野菜などの食材はできるだけ岐阜県産のものを使用し、古海さんが今まで関わってきたおいしいものと、地元の食材を合わせたこだわりのメニューがそろっています。
また野菜については、ゆくゆくは義母が手入れを続けている自宅の畑で、自家栽培をしようと考えているそうです。
古海さんが長年の夢として思い描いてきたのは、ふらっと立ち寄ると偶然友達に会うような“場”。大通りに面しながらも落ち着いた雰囲気の店内。今日も通りがかりの人はふと足を止め、地元の人は親しみやすい古海さんに気軽に声を掛けています。
コーヒーやビールを介して、自然と人が集まり、意図せずとも緩やかに人と人がつながっていく空間に育てていきたいという古海さん。それは何より、古海さん自身がそんな“場”が好きだから。
「お店は自分の“城”みたいなイメージ。そこに友達やお客さんが遊びに来てくれているという感覚ですね。やりたいことは都会や故郷じゃなくても、この岐阜市で実現できるって思ったんです」。
肩肘張らず、自分のペースで一歩一歩、人生を歩む古海さん。今日も自慢のカウンターで、朗らかにお客さんを出迎えます。
yoknel
Instagram @yoknel_coffee_banhmi_beer