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「XX DEVELOPMENT」の代表・戸谷太一さんは、岐阜県海津市の出身。「洋服を作る仕事がしたい」という思いを抱えて大阪に出た。その第一歩として23歳で始めたのが、ジーンズの裾上げや穴補修の仕事である。その後、自宅に中古の工業用ミシンを何台も置き、ジーンズの製造を始めた。オリジナルのジーンズを店に置きたいショップ経営者の間で、その存在はすぐ噂になる。大阪のみならず全国から依頼がくるようになった。
注文数が100本単位にまで増え、一人で対応できなくなった時に縁ができたのが、地元・岐阜の縫製工場だ。いくつもの工場の協力によって多くの受注に対応できるようになった戸谷さんは、2007年に拠点を岐阜市に移した。その後、大手メーカーとの取り引きが始まり、毎回700~800本発注が来るほど事業が拡大。自分ではミシンには触らず、多くの協力会社を動かす司令塔のような立場に徹した。
しかし、順風満帆な事業拡大は突如終わる。大手メーカーが民事再生法の適用を申請する事態になったのだ。ひたすら前進を続けてきた戸谷さんだが、ここで方向転換することを迫られた。使わなくなっていたミシンを集め、もう一度自分たちで洋服を縫うことを決めた。
その頃に入社したのが、ディレクターの吉川健大郎さんだ。ファッションデザイナーという夢を叶える場所として、同社を選んだ。内製化に舵を切った後、XX DEVELOPMENTの技術へのこだわりは評価され、世界的なブランドからも依頼が来るまでになっていた。設備投資を惜しまず、理想のものづくりを追求する日々。その中で吉川さんは着実に腕を上げていった。しかしある時、吉川さんはこんなことを言った。
「戸谷さん、“俺の服”がないんです」
吉川さんは友人からよく、「今着ている服って自分で作ったの?」と聞かれたそうだ。しかし、仕事で縫っている洋服は他社ブランドのもので、自分の服と呼べるものではない。そのことにジレンマを感じ始めていたのだ。
ちょうどその頃、従業員がモチベーションを持って働ける環境づくりについて考えていた戸谷さん。吉川さんの言葉を聞いて“俺たちの服”を作ろうと決めた。2019年に立ち上げた自社ブランドの名前は、「ノーコンプライ ジーンズ」。コンプライと言う言葉には、「仕様」や「規則」などの意味がある。仕様書通りに洋服を作ってきたやり方に区切りをつけ、オリジナリティのあるものづくりをする。そうしたメッセージを体現し、従業員みんなで熱い気持ちを共有しながら洋服を作った。
自社ブランドの展開を加速させたのが、SNSの活用だ。自分たちの言葉で商品のこだわりを伝え、購入してくれたお客さんに感謝の言葉を伝える。また、国内外のお客さんから商品の感想が直接届く。戸谷さんや吉川さんが出演する動画も始めた。
「普通はみんな、自分が着ている洋服を縫った人のことを知りませんよね。でも、この動画で吉川は『僕がこの服を縫いました』と話しています。そのことをお客様は新鮮に感じてくださっているようです」
お客さんは商品の品質だけでなく吉川さんの個性や成長していく姿など、すべての情報をブランドの価値と感じているようだ。人の姿や言葉を全面に出したプロモーションが成功し、ブランドの認知度は日増しに高まっている。
「岐阜の繊維産業が苦境で……という話はもう聞き飽きましたよね。そうじゃなくて、岐阜ってすごいよ、という言葉をどんどん発信していくべきだと思います。こんなに面白い場所があります、こんなに個性的な人がいますって」
ジーンズの裾上げからビジネスを立ち上げた戸谷さんの歩みには、繊維産業で生きていく人の参考になる知見が詰まっている。現在進行形の挑戦に、今後も注目したい。
■ XX DEVELOPMENT(ダブルエックス デベロップメント)
2003年に大阪で創業。2007年に拠点を岐阜市に移し、縫製工場として実績を積む。2019年に自社ブランドを立ち上げ、ファクトリーインショップとECサイトをスタートする。「ノーコンプライ ジーンズ」のほか、生活雑貨、レザーアイテム、ガーゼマスクのブランドを展開している。
【住所】岐阜市本荘西3丁目8
【お問い合わせ】058-253-2630
投稿日:2023.01.20 最終更新日:2023.12.07