Live 02 / Uターンの暮らし
2022年2月に「ライフシェアスペースnoma」をオープンさせた、名和豪敏さんと香里さん。お二人は以前、名古屋に住んでいたが、第一子が生まれた2013年に岐阜に移った。香里さんの実家は、岐阜市鏡島で戦後からプロパンガス会社を営んできた家。その後継者になるべく、豪敏さんは勤めていた会社を辞め、義父が経営する会社「ネクスト名和」で働き始めた。しかしそこからしばらくは、悩みの多い日々を過ごしたという。
「プロパンガスの市場は縮小を続けているため、先々のために何か手を打たなくてはなりません。でも自分に何ができるかが分からず、答えの出ない時期が続きました」
また、意外なことに香里さんも、岐阜での生活にスムーズに溶け込めなかったという。
「一度外の世界を見て、いろんな人との出会いや新しい出来事を経験できる楽しさを知りました。でも岐阜に帰ってきたら、どこに行っても知り合いに会うような世間の狭さがあり、少し息苦しさを感じました」
そうした状況でまず、豪敏さんが動き出す。義父の弘八さんがかねてから力を入れていたリフォーム事業を発展させる形で、建築設計事務所を設立。建物を延命して有効活用するリノベーションに活路を見出し、事業を展開していった。そして同時に力を入れたのが、プライベートの時間を使った地域活動である。文化や歴史に関心を持ってまちを歩き、地域の多様な魅力を見つけていった。その一環で関心を持ったのが、近隣の乙津寺である。仲間と一緒に縁日にマルシェイベントを開いたところ、大勢の人が喜んでくれた。
「僕たちが地域で何かを始めれば、子どもたちの思い出が一つできます。そういう取り組みを続け、『この場所がいいよね』と言える地域にしていきたいと思いました」
そうした豪敏さんの言動が、香里さんにも変化を与えたという。
「夫は外の地域から来たからこそ、新鮮な目で地域の魅力を見つけられたのかもしれません。その視点を通して、私も改めて岐阜の良さに気づくことができました」
名和さんの子どもたちは学校が終わると、自宅近くにある仕事場に「ただいま」と帰ってくるそうだ。両親や従業員、近所の人たちが一緒に子どもの成長を見守る光景には、香里さんの幼い頃と変わらないあたたかさがある。
そうした日々を経てオープンしたのが、「ライフシェアスペースnoma」だ。コロナ禍で苦境にある飲食店や料理教室をサポートしたいという思いを出発点に、各スペースの機能を考えた。豪敏さんが設計を手がけ、隣り合う2棟の建物をリノベーション。1階には本格的な調理ができるシェアキッチンとデイリーショップを開設した。テイクアウト販売を行う飲食店や、月に数日だけ店を開きたい人などが利用している。「飲食店の方が新商品を開発してテストマーケティングを行うなど、新しいことにチャレンジする場になってほしいと思います」と豪敏さんは展望を語る。
2階のプライベートダイニングは料理教室などに利用されるほか、3階のゲストルームと併せて一棟貸しの宿のように使うこともできる。このように、地域の人が求める機能を多様な形で提供していることがnomaの特徴だ。
「必要とする人の気持ちに応えられる場所にしたいです。使う人や訪れる人が楽しく輝いてほしいという思いがあります」
ある利用者は、ここで子ども食堂を開きたいと話しているそうだ。困っている人を手助けしたいという気持ちを持った人や、新しいことに挑戦したい人が周囲にたくさんいると香里さんは話す。nomaの存在によって、「何かをやりたい」という気持ちが一つひとつ具現化されていく。人のつながりや、人を支えようとする気持ち。地域に育まれてきたものが形になって、新しい風景が生まれようとしている。
■ 名和豪敏さん・香里さん
名和豪敏さんは、2014年にリノベーションを専門とするマルホデザイン一級建築士事務所を設立。また2018年から(株)ネクスト名和の代表を務める。香里さんは2022年に立ち上げたライフシェアスペースnomaの管理・運営を担う。
■ noma
【住所】岐阜市大菅北2-26
【お問い合わせ】https://linktr.ee/noma_bldg
投稿日:2023.01.17 最終更新日:2023.12.07