Live 03 /若者の人生観
岐阜市黒野の小さなスーパーがいま、SNSやテレビで注目を集めている。「ハイショップふじた」の3代目、藤田尚樹さんの挑戦をご紹介したい。
この店のルーツは、尚樹さんの祖父が60年以上前に開いた八百屋だ。その後現在の場所に移ってスーパーを開いた。2階の自宅で育った尚樹さんは、お弁当やお総菜を作る祖父や両親の姿をいつも間近で見てきた。
「僕は子どもの頃から、店を継ぐつもりで育ちました。将来のことを考えて、大学時代はアルバイト先で料理を学び、卒業後も2年間和食の店で修行しました」
実家に戻ったのは24歳の時。最初は毎朝市場に通い、父の教えを受けながら鮮魚について学んだ。そうして経験を積んできた尚樹さんは、今から10年ほど前にスイーツ作りを始める。しかし、その背景にはやむを得ない事情があった。
「魚や肉、野菜などの生鮮品は、毎日きれいに売り切れるわけではありません。半額に値下げしたりお惣菜に加工したりしないと、どうしてもロスが出てしまいます。傷のあるりんごがある時などにスイーツに加工せざるを得なかった、というのが実際のところです」
最初に作ったのは果物がたくさん入ったゼリー。スイーツづくりは未経験だったため、スマホでレシピを調べて独学で作った。自信はまったくなかったが、店頭に並べたゼリーは、驚くほどよく売れた。
「いま思うと、うちの店は祖父の時代から自家製の商品で成り立っていたんです。大きなスーパーやコンビニに売っているものとは違う、うちにしかない特長を感じて、お客様はスイーツを買ってくださったと思います」
尚樹さんは夢中になって新作の開発に取り組み、商品のバリエーションを増やした。さらに、2020年に始めたインスタグラムが、人気に拍車をかける。日々の商品情報を載せたところフォロワーがどんどん増え、県外からもお客さんが訪れるようになった。勢いは今も続いており、20種類、400個ほどのスイーツが毎日売り切れるという。
現在は10名ほどの従業員が製造に携わり、尚樹さん自身も19時頃から夜中の2時頃までスイーツを作る。朝起きると、完成したスイーツの写真を撮ってSNSに投稿し、それが終わると市場に行く。休日やプライベートの時間はあまり取れないそうだ。
尚樹さんが特に力を入れているのが、誕生日ケーキだ。手づくりの味わいと果物たっぷりの贅沢さが評判を呼び、毎日何個も注文があるという。
「友だちのお子さんの誕生日ケーキを作ることもあります。ホールケーキを買う時は特別な意味があると思うので、安心して頼んでいただけることをうれしく思います」
インスタグラムでの発信やテレビ出演は、大きな反響を呼んだ。もちろんそれは喜ぶべきことだが、そうしたメディアのみに頼るつもりはないと尚樹さんは言う。
「この店には、何十年も通ってくださる常連のお客様がいます。今はスイーツで注目されていますが、地域のお客様のために店頭の商品やお惣菜を充実させ、スーパーとしての満足度を高めていくことが何よりも大切だと思っています」
近年、品ぞろえ豊富な大手スーパーが増え、家族経営のスーパーは厳しい状況に置かれている。しかし一方で、地元で長く営んできた店には、常連客とのつながりやきめ細かいサービスなど、大手には真似できない強みがある。ハイショップふじたが守ってきた、まちのスーパーならではの魅力。それは尚樹さんの手で、大切に受け継がれている。
■ ハイショップふじた
旬の果物を使った手作りスイーツと豊富な種類のお総菜が人気のスーパー。店長である藤田尚樹さんのほか、社長を務める父と母、妻の4人で店を営んでいる。スイーツは昼頃に売り切れることもあるほどの人気ぶりだ。
【住所】岐阜市黒野277
【TEL】058-239-0560
投稿日:2023.01.17 最終更新日:2023.12.07